80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.238

 

ボヘミアン  葛城ユキ

作詞 飛鳥涼

作曲 井上大輔

編曲 井上大輔

発売 19835

 

 

 

突然ヒットチャート上位に進出した豪快な女ロッカー、ハスキーでパワフルなボーカルで魅了した大ヒット曲

 

 葛城ユキは最初から「葛城ユキ」であったわけではないのですね。1969年に「田中小夜子」でデビューし、「朝霧まち」になって、「葛城ゆき」で「葛城ユキ」と、4つ目の名前だったのですね。ただこれといったヒット曲のないまま時は過ぎ、デビューから苦節13年半。突然のようにヒットチャートの上位にあがってきたのが『ボヘミアン』でした。実はこの曲、カバー曲だったのです。19829月に大友裕子が歌ったのが最初でしたが、ほとんどヒットせず、翌年リリースした葛城ユキ版が、本人のキャラクターとハスキーボイスにマッチして、見事にヒットと相成ったわけです。カバー元よりも、次にカバーした方が売れてしまうというのは、石川ひとみ『まちぶせ』もそうなのですが、やはりタイミングだったり、歌い手との相性だったり、知名度や宣伝力だったり、いろんな要素があっての結果なのでしょうね。

 

 葛城ユキは『ボヘミアン』のヒットで、音楽番組にも登場しましたが、初めて彼女を観た時、見事にボーカルのイメージ通りの容貌で、納得感が強かったです。いかにも女性ロッカーといういで立ちで、それでいてどこか気のいいおばちゃん的な親しみやすさもあって、とにかく個性的でしたね。そして『ボヘミアン』は結果オリコン最高3位、売上41.4万枚という大ヒットとなったわけです。飛鳥涼が光GENJIや少年隊、中山美穂、南野陽子など、作詞作曲の両方で他のアーティストへ楽曲を提供し、ヒットを生み始めたのはもっと後になってから。そういう意味では飛鳥涼に作詞をこの時期に依頼したというのは貴重ですし、依頼した側としたら、先見の明があったともいえるかもしれません(大友裕子の陣営ということになりますが…)

 

 その飛鳥涼ですが、作詞だけというのが面白いところで、当時の飛鳥涼は『万里の河』のあと、次のヒット曲がなかなか生まれずに、あがいているような時期だったのです。そして作曲はヒットメイカー井上大輔。80年代には数多くのヒット曲を作曲してきた作曲家だけあって、きちんと売れ線の曲を作ってきたなというところですね。その楽曲がテレビドラマの主題歌に使われたことで、大ヒットに結びついたわけです。

 

 《ボヘミアン 破れかけのタロット投げて 今宵もあなたの行方占ってみる》

の冒頭部分は、いかにもジプシー感であふれた表現で、聴いている者のハートをガチっとつかみます。この表現力は、後の「しゃかりきコロンブス」にも通じる作詞家飛鳥涼の才の片りんを感じさせます。そしてこれを葛城ユキの迫力あるハスキーボイスで歌うと、完全にこの歌の世界は彼女の物になってしまうから不思議です。のちに飛鳥涼自身が歌うボヘミアンも聴きましたが、まったくもって違う世界になってしいるのですよね。それだけ葛城ユキというボーカリストは、どんな歌でも自分の世界に染め上げる歌唱力を持った歌い手であることには違いないでしょう。

 

 ただその後はヒットチャート上位に作品を送り込むことはなく、典型的な一発屋にはなっていますが、今もこの『ボヘミアン』を大きな財産として、時折パワフルな歌唱を聴かせてくれるのは、うれしいことです。ただそんな葛城ユキも病気には勝てず、本年永眠。久しぶりに葛城ユキの名前をニュースで耳にした目にした瞬間でもありました。