80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.235
スローなブギにしてくれ( I want you) 南佳孝
作詞 松本隆
作曲 南佳孝
編曲 後藤次利
発売 1981年1月
同名映画の主題歌に起用されて浸透、けだるさの中にアダルトなムードいっぱいの南佳孝随一のヒット曲
南佳孝は1973年にデビューを果たしたものの、長らくヒットに恵まれず、初めてヒットチャートに顔を出したのが7枚目のシングル『モンロー・ウォーク』(1979年4月)でした。この曲は郷ひろみが『セクシー・ユー』(1980年1月)とタイトルと歌詞を替えて歌いヒットさせたことで、本家の『モンロー・ウォーク』にも注目が集まり、最高38位、売上12.2万枚の実績を残しました。これにより南佳孝の名前が少しずつ浸透し、そして1981年1月発売の10枚目のシングル『スローなブギにしてくれ( I want you)』が、同タイトルの角川映画の主題歌に起用されたこともあって、オリコン最高6位、売上28.4万枚の大ヒットになったのでした。
映画『スローなブギにしてくれ』は、ヒット作・佳作を多数作り出している藤田敏八、原作は当時売れっ子作家だった片岡義雄、主演は売り出し中の浅野温子ということで話題になった作品、しかも勢いのある角川映画。南佳孝にとっては大きなチャンスと捉えられたことでしょう。実際にこれがキャリア唯一のトップ10入りの曲になったわけですから、この曲があったということは、南佳孝のこの後の音楽人生においても大きな財産になったはずです。
『スローなブギにしてくれ( I want you)』が流行った当時、私は中学生。中学生からすると、なかなかこの曲の良さは分かりにくかったのも事実で、やはり『モンロー・ウォーク』のキャッチーのメロディーとセクシーな歌詞の方が、すんなり楽しめたというのはあります。郷ひろみがテレビでよく歌っていて、耳にもなじんでいたというのもあるでしょう。それに比べると 『スローなブギにしてくれ( I want you)』は曲もスローで、ノリの良い曲ではありません。歌詞も大人の恋の駆け引きを歌っていて、さすがに中学生が「うん、わかるわかる」と言えるような内容でもなかったですしね。ただ出だしやサビの、ためてためての『Want you』だけはインパクトがありました。
それも含めて大人になってあらためて聴くと、ムーディで味わいのある歌だなって思いますし、なんか歌ってみたくもなるから不思議です。やっぱりこの曲は大人のための曲なのでしょうね。
《人生はゲーム 誰も自分を 愛しているだけの悲しいゲームさ》
なんて、なかなか歌えませんよね。2コーラスめ
《人生はゲーム 互いの傷を 慰め合えれば 答えはいらない》
も含めて、さすが松本隆といった感じです。たとえ映画の力を借りたといっても、こうした類の曲がヒットチャート上位に食い込んでくるということはそうないことで、そんな点からも『スローなブギにしてくれ( I want you)』のヒットは意義深いことだったんじゃないかって思っています。
ただ大人のアーティスト南佳孝が、このままヒットチャートを賑わし続けるということは難しくて、17枚目のシングル『スタンダード・ナンバー』(1984年4月)がオリコン32位、売上8.2万枚となった以外はこれといったヒットもありませんでした。むしろ他のアーティストやアイドルに曲を提供することの方が目立っていて、有名なところでは薬師丸ひろ子『メインテーマ』がありますね。それでも音楽業界で長い間活躍を続けてきたわけですから、やはり南佳孝にしかだせない味わいというものは捨てがたく、ファンに支持されてきたということでしょう。