80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.234
背番号のないエース ラフ&レディ
作詞 売野雅勇
作曲 芹澤廣明
編曲 芹澤廣明
発売 1986年3月
『想い出がいっぱい』に続けとばかりに、またまた男性デュオによって歌われた、あだち充原作劇場版「タッチ」の主題歌
1980年代の半ば、絶大の人気を誇った漫画家あだち充の作品が、次々にテレビや映画でアニメ化、或いは実写化され、その主題歌もヒットしていきました。テレビアニメ「タッチ」の主題歌の岩崎良美『タッチ』、テレビアニメ「みゆき」の主題歌のH2O『想い出がいっぱい』、テレビドラマ「陽あたり良好」の主題歌の竹本孝之『とっておきの君』などがありましたが、その流れに乗って発売されたのが、劇場版アニメ『タッチ 背番号のないエース』の主題歌であるラフ&レディ『背番号のないエース』でした。
ラフ&レディは1985年にデビューした男性デュオでしたが、デビュー曲『君は衝撃波』(1985年9月)はまったく売れず、オリコントップ100にも入りませんでした。当然、世間的には無名の存在で、このあたりはH2Oと似たところはありますね。そのH2Oがあだち充の漫画を原作としたアニメの主題歌に起用されたことで大ヒットに繋がったことから、ラフ&レディについても、その二番煎じを狙ったということでしょうね。結果としてオリコン最高9位、売上16.8万枚というヒットに結び付いたのでした。
作詞・作曲は初期のチェッカーズでおなじみの売野雅勇&芹澤廣明。でもチェッカーズの雰囲気とは違った素朴な曲になっています。まあ、せつない失恋青春ソングですね。好きな女の子にその気持ちを伝えることもできず、別の男と好き同士になっているのを、表面的には応援している自分を寂しく思っている。そんな状態を、背番号のないユニフォームを着て外野席から声を出している自分と重ね合わせているのですよね。今改めて歌詞を読んでみると、これがなかなか哀愁を感じられて、じわじわくる歌詞になっているのです。そして最後のフレーズ
《時が投球(ほお)った cry スローカーブが コースから逸れてく… 僕たちが逸れてく…》
がまたよくて、余韻がいつまでも残るようなものになっています。まさに『タッチ』にはぴったりの、恋と野球を欠けて歌った曲。曲が地味なので、なんとなく詩にもあまり注意が向かなかったのですが、どうしてどうして。オリコントップ10入りしただけのことはあるといったところでしょう。
ただラフ&レディとしてトップ100に曲を送り込んだのはこの『背番号のないエース』のみ。H2Oと同様に、いわゆる一発屋の道をまっすぐに歩んでいってしまったわけです。人気アニメの主題歌、地味で素朴な印象の男性デュオ、曲は売れてもラフ&レディという二人組に世間の興味が向かうこともなく、気づかれないように消えていったのでした。