80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.221

 

ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ  松任谷由実

作詞 松任谷由実

作曲 松任谷由実

編曲 松任谷正隆

発売 19838

 

 

 

その後に続くシングルセールス安定期の起点となり、当時人気急上昇中の原田知世との競作でも話題になった、女性の決意を感じるラブソング

 

 どちらかというとアルバム・アーティストとしての印象が強い松任谷由実、特に1980年代まではシングル曲よりもアルバムだけに収められているような曲の方が話題になったりと、シングルは二の次という感はありました。しかしその中でも『あの日にかえりたい』(197510)がオリコン1位、売上61.5万枚の大ヒット曲となり、次の『翳りゆく部屋』(19763)もオリコン10位、25.6万枚とヒット。当時は荒井由実でしたが、一気に知名度をあげたのです。

 

その後しばらくシングルセールスは低迷しますが、19816月発売の『守ってあげたい』がオリコン2位、69.5万枚と久しぶりの大ヒット。ここから松任谷由実はその名前だけでシングル曲もある程度のセールスを残すことができるようになっていくのです。この間には数々のアルバムの名盤が送り出されていくので、そのアルバムの派手なセールスに比べると、『守ってあげたい』を除くとセールス的には大人しい感はあるのですが、それでもオリコンのトップ10の死守を続けます。そして1990年代になると、複数のミリオンセールス・シングルが誕生するというわけなのです。

 

今回取り上げた『ダンデライオン』は『守ってあげたい』の2つ後のシングルで、シングル連続オリコントップ10入りの起点となった作品になります。原田知世のヒットシングル『時をかける少女』を手掛けた縁もあって、『ダンデライオン』は競作という形にもなっています。ただ原田知世の『ダンデライオン』(B面は『守ってあげたい』)は通常のシングル扱いはされておらず、オリコンのチャートにも登場していません。販売の形式がパンフレットや写真集とセットの価格になっていたということなのでしょうか。それでも当時ラジオなどでは双方ともよく流れていたのは記憶に残っています。

 

『ダンデライオン』は簡単に言ってしまえば、これからあなたと共に歩いていくわという決心を歌ったラブソングです。その中で印象に残るのが、どこか懐かしさを感じさせるような言葉の数々です。

《夕焼けに小さくなる くせのある歩き方》

《ふるさとの両親が よこす手紙のような》

など、実は決して過去を振り返って歌っているわけではないのですよね。それでも“夕焼けとか“ふるさとというワードが、郷愁感を抱かせるのです。

 

そしてもっというと、実は2作前の『守ってあげたい』の影響もあるのではないかと私は思っています。曲の雰囲気に近いものがあって、なにか知らず知らずにリンクしてくるのですよね。『守ってあげたい』もあなたをすべてのものから守っていくわというある種の決意だと思いますし、遠い夏にトンボをとったり、日暮れまで土手でレンゲを編んだりと、こちらは明らかに過去を振り返っているのですが、そこに昔を懐かしむ懐古的なもの、或いは郷愁的なものが織り込まれているのです。その雰囲気を引きずったまま『ダンデライオン』を聴いていたので、余計にそんな故郷を懐かしむような感傷になっていたのかもしれません。

 

このあと1980年代の半ばから後半にかけては、松任谷由実は女子大生やOLの恋愛のバイブル的な存在として、一時代を作っていきます。アルバムは爆発的なヒットを放ち、彼女の作り出す歌の世界は、バブル絶頂期で浮かれる日本の若者たちのひとつの象徴のようでもありました。そして90年代に入ると、今度はドラマとのタイアップによるシングルの爆発的なヒット量産時代へと移っていきます。その時代時代を捉えて作品にし、多くの人々に届ける能力といったものは、とにかく目を見張るものがありました。