80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.202

 

想い出がいっぱい  H2

作詞 阿木燿子

作曲 鈴木キサブロー

編曲 萩田光雄

発売 19833

 

 

 

男性フォークデュオ隆盛の最終期、あだち充人気の流れに乗ってヒットした、美しいハーモニーが人々の心を打つ珠玉の一曲

 

 『タッチ』『ナイン』『陽あたり良好!』そして『みゆき』…当時、中高生を中心に大人気だった漫画家あだち充の作品たちが、1980年代前半に次々にアニメや実写ドラマ、映画などになり、合わせてその主題歌もヒットするという流れがありました。その中でも岩崎良美の『タッチ』ともに、後に歌い継がれる作品として残ったのがH2O『想い出がいっぱい』でした。まったくの無名であった男性デュオの曲が、テレビアニメ『みゆき』の主題歌に起用されると、これはいい曲だと多くの人々に広がり、オリコン最高6位、売上43.0万枚という大ヒットに結び付いたのです。

 

 男性デュオというと、当時はフォークソング系のイメージが強くて、ビリー・バンバン、雅夢、(当時の)チャゲ&飛鳥、グレープ、風などが出てきましたが、H2Oもその流れを汲んだデュオといってよいでしょう。1990年代以降はB‘z、(アルファベット表記になった)CHAGE&ASKA、ゆず、19、コブクロ、CHEMISTRYからKinKi KidsWaT、タッキー&翼など、幅広いタイプの男性デュオが登場してきたわけですが、1980年代前半のH2Oあたりが、フォークソング系デュオが幅を利かせた最後の時代といっていいのではないでしょうか。

 

 そんなH2Oが歌った『想い出がいっぱい』のヒットした礎は、アーティストパワーではなく、あだち充人気+プロ作家の作った楽曲にあることは間違いないでしょう。元々は自分たちで作った曲も歌っていたのですが、時々プロの専門家の力を借りることもあったH2O、5枚目のシングルとなった『想い出がいっぱい』は、作詞阿木燿子、作曲鈴木キサブローとともに売れっ子作家を起用。そしてそれが見事にはまったわけなのです。

 

阿木燿子といえば、『横須賀ストーリー』『イミテイション・ゴールド』『さよならの向う側』『プレイバックPart2などなど山口百恵の楽曲の作詞を多く手がけたことで有名ですが、それ以外でもキャンディーズ『微笑がえし』、郷ひろみ『ハリウッド・スキャンダル』『How Manyいい顔』、ジュディ・オング『魅せられて』、ザ・ヴィーナス『キッスは目にして!』、中森明菜『DESIRE』、高橋真梨子『はがゆい唇』、沖田浩之『E気持』、柏原芳恵『ちょっとなら媚薬』、薬師丸ひろ子『紳士同盟』とヒット曲を多数送り出しています。どちらかという刺激的なワードやフレーズを入れ込んで、刺激の強い歌詞を得意としているイメージが強いのですが、こと『想い出がいっぱい』については、歌詞としてはごくありふれた言葉を使った、穏やかな歌詞なのです。これが阿木燿子の作詞だと知って、ちょっと意外な気がするぐらいです。でもそれが結果的に大当たりするわけですから、さすが阿木燿子というしかないでしょう。

 

歌詞もメロディーもアレンジも歌っているアーティストも、けっして派手でも刺激が強いわけでもないのですが、それらとさらにプロモーションがうまく調和すると、後世に歌い継がれていく名曲になるわけですからね。確かにこの曲、1回聴いただけでは、さほど印象に残るわけではないのですが、何回か聴いたり、口ずさんだりするうちに、あーいい曲だなと思えてくるから不思議なのです。この曲に合わせて、青春時代のワンシーンが思い浮かんでくる人も多いのではないでしょうか。ちなみに私は、大学4年のサークルでの追い出しコンパのラストに、みんなでカラオケで歌ったのがこの曲でした。『想い出がいっぱい』…まさに友たちとの別れ、そんなシーンにぴったりはまり、よく歌われたものでした。

 

 ただH2Oにとっては、この曲が唯一のヒット曲となり、次のシングルGood-byeシーズン』(198310)はオリコン最高54位どまり。何の紛いのないきれいな一発屋アーティストとして終わってしまいました。もっともそれだからこそ『想い出がいっぱい』は珠玉の一曲として、人々の心に残り続けていったのかもしれません。