80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.198
時計をとめて わらべ
作詞 荒木とよひさ
作曲 三木たかし
編曲 松武秀樹
発売 1984年12月
大ヒット2曲の影に隠れたわらべ最後のシングル、メロディーとハーモニーが美しく心地の良い讃美歌のような一曲
萩本欽一こと欽ちゃんが生み出したテレビ番組出身の2大ヒットグループが、ミリオンヒットを放ったイモ欽トリオと、ミリオンに近いヒットを2曲出したこのわらべということになるでしょう。わらべは「欽ちゃんのどこまでやるの!」にオーディションで選ばれて出演していた高部知子、倉沢淳美、高橋真美の3人組で、1982年12月にリリースした『めだかの兄妹』がオリコン最高3位ながら、売上88.5万枚の大ヒットとなります。さらにその一年後1983年12月に『もしも明日が…。』も大ヒットとなり、こちらはオリコン最高1位、売上97.0万枚と、あと一歩でミリオンヒットとなる実績を残したのです。
ただしすべてが順風満帆というわけではなく、実は『もしも明日が…。』では高部知子が抜けた2人編成になっていました。高部知子はベッドで喫煙写真に元カレの自殺で脱退せざるを得なくなったのです。これは俗に「ニャンニャン事件」と言われ、後の「夕やけニャンニャン」「おニャン子クラブ」の命名の元となるわけで、その意味では後世に大きな影響を残した出来事となったわけです。それでも欽ちゃんの番組の影響は絶大で、2人になっても大ヒットとなったわけで、さらに1984年3月には倉沢淳美がソロデビューまだ果たすことになるのです。
そんな中でわらべの3枚目のシングルとして発売されたのが『時計をとめて』でした。この3枚目のシングルは、今では前2曲の大ヒットの影に埋もれて、滅多に語られることもないのですが、前2作との差はあるものの、オリコン最高6位、売上15.4万枚と、一定の実績は残しているのです。しかも個人的には、3曲の中ではこの曲が一番好きで、作詞作曲陣は一緒なのですが、切なげで美しいメロディーがなかなか秀逸なのです。子供向け、ファミリー向けの前2作に比べると、やや大人向けの作品にもなっているのではないでしょうか。
歌詞はわらべのイメージを壊さないように、老若男女だれにでも通じるような、幅の広い受け止め方ができる内容になっています。ですから、直球のラブソングにはしませんし、具体的な描写も最小限にとどめ、敢えて観念的な内容になっています。《時計をとめて ふたりのために かさねる手のひら 寂しがるから》の「ふたり」とは誰と誰?と思ったりもするのですが、恋人同士や夫婦と捉えることもできますし、お母さんと子供といった捉え方もできます。受け取る側の状況によって、この歌詞の読み取り方も変わってくるのが、この歌詞のみそではないでしょうか。それ以外の状況についても、時間帯が夜ということは明確ですが、それ以外はどうにでも受け止められます。そのあたりをいろいろいと考えさせるという点で、それまでと比べて、やや大人向けというわけです。
そしてなんといってもメロディーが美しいですし、アレンジがまたよろしいです。教会で歌われる讃美歌のような雰囲気もちょっと漂っていて、聴いていると神聖な気持ちにさえなっていきます。これ、クリスマスソングとして、歌詞をそれっぽくしていたら、もしかすると違った展開になっていたのかもしれません。わらべとしての旬が過ぎていたことから、大きなヒットにはなりませんでしたが、埋もれてしまうにはちょっと惜しい曲でもあります。どこかでまた紹介してくれたりしたらいいななんて思っています。