80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.193

 

パールモンド・Kiss  渡瀬麻紀

作詞 松宮恭子

作曲 松宮恭子

編曲 船山基紀

発売 19876

 

 

 

1990年代にバンドのボーカルとしてヒット連発する未来を知る由もない頃、女性アイドル時代の最高セールスのデビュー曲

 

 いうまでもなく渡瀬麻紀は、1990年代にヒット曲を連発したロックバンドLINDBERGの女性ボーカル渡瀬マキとして大活躍したわけですが、そもそもはソロアイドル歌手として1987年にデビューしていました。そのデビュー曲が、今回とりあげた『パールモンド・Kiss』です。

 

デビュー当時の渡瀬麻紀は、見かけは完全にアイドル歌手をしていましたね。童顔で可愛らしいルックスと、清楚で女の子らしいファッション、ふわふわのスカートをはいて歌う姿は、後にピチピチのブラックジーンズと白地のカットソー、ショートヘアでラフに歌うボーイッシュな姿とはまったく異なるものでした。さらに歌い方もかなり違っていて、そのあたりはロックバンドのボーカルを務めるにあたり、意識して歌唱法を変えてきたのでしょう。

 

ライバルとなる1987年デビューの女性アイドルというと、酒井法子、森高千里、小川範子、後藤久美子、立花理佐、中村由真、仁藤優子、畠田理恵、伊藤美紀、守谷香、小沢なつき、おニャン子からは工藤静香、ゆうゆ、我妻佳代などがいて、まだまだソロアイドルが元気な時代でした。こうして名前を見てみると、その後の人生もほんとうに色々という感じがしますね。今も芸能界でバリバリに活躍している人もいれば、玉の輿に乗って引退した人もいたり、或いは犯罪に手を染めてしまったり、はたまた海外へ渡って悠々自適に暮らしたり、本当にバラエティに富んだメンバーが揃っていますね。

 

そんな中での渡瀬麻紀は、決して目立つ存在ではありませんでした。新人賞のレースに出てくるのは、立花理佐、畠田理恵、酒井法子、仁藤優子、そして2人組のBaBeあたりで、渡瀬麻紀にはほとんどお呼びはかかっていません。セールス的にも、酒井法子、小川範子、立花理佐、後藤久美子、そしておニャン子勢あたりが上位にチャートインしていたのに対し、デビュー曲『パールモンド・Kiss』はオリコン最高43位、売上2.0万枚と振るわないものでした。

 

この『パールモンド・Kiss』の楽曲も、なんか本人の見かけのイメージとは異なる、マイナー調の歌で、1987年当時からすると、ちょっと古い感じなのですよね。70年代後半のアイドルソングのような印象で、これがデビュー曲では、なかなか渡瀬麻紀の魅力を伝えるのは難しかったかもしれません。作詞、作曲はともに松宮恭子。石川秀美『Hey!ミスター・ポリスマン』『ミステリー・ウーマン』『愛の呪文』、河合奈保子『愛をください』、堀ちえみ『潮風の少女』など、他の女性アイドルにも多くの楽曲を提供していた作詞・作曲家でしたが、東京大学出身ということです。2ndシングルI love youも、作詞作家は別の人になりますが、曲調としてはマイナーでせつな悲しい系の曲で、渡瀬麻紀のキャラクターを考えると、ポップで明るくはじけるような歌の方があっていたように思います。渡瀬麻紀がアイドル歌手として早々と戦線を離脱してしまったのは、戦略的な失敗もあったのではないでしょうか。もっとも、早々とアイドルに見切りをつけたことが、結果としてやがてくる大成功に早くつながったともいえるわけで、90年代における大活躍は今更説明の必要はないでしょう。

 

ということで、『パールモンド・Kiss』の失敗こそが、のちのLINDBERGとしての成功の素であったわけで、長い目で見たときに何が功を奏すか分からないということですね。もしこのデビュー曲がそこそこ売れてしまっていたら、LINDBERGは別のボーカルになっていたか、登場がもっと後になっていたわけで、すると1990年代の音楽チャートもまた違ったものになっていたかもしれないわけですからね。