80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.190

 

唇よ、熱く君を語れ  渡辺真知子

作詞 東海林良

作曲 渡辺真知子

編曲 船山基紀

発売 19801

 

 

 

この年の化粧品CMソング戦争を彩った一曲は、渡辺真知子のイメージを変える前向きで明るいアップテンポチューン

 

 197711『迷い道』でデビューした渡辺真知子は、そのデビュー曲がいきなりオリコン最高3位、61.3万枚の大ヒット、続く『かもめが翔んだ日』(19784)もオリコン最高5位、46.0万枚と連続のヒットとなり、1978年の新人賞を総なめ、紅白歌合戦にも出場しました。圧倒的な迫力あるボーカルと、女性の哀しみや戸惑いを表現したメロディーメイカーとしてのセンスで、一躍人気歌手となったのです。ただ3枚目のシングル『ブルー』(19788)のオリコン10位、売上33.3万枚のヒットの後、セール的には少しずつ低下をしていきます。そんな状況で突入した1980年代、ここでもう一回盛り返していこうということでリリースした7枚目のシングルが『唇を、熱く君を語れ』でした。

 

 この曲はカネボウ化粧品の春のCMソングに起用されたということもあり、それまでの渡辺真知子のマイナー調の悲しいメロディーから一転、明るくはじけるようなアップテンポの曲になっていて、このイメージチェンジはかなり新鮮でした。この年の春は、化粧品CMのテーマソングとして、女性ソロシンガーの曲が採用されることが多く、資生堂の竹内まりや『不思議なピーチパイ』、ポーラの庄野真代『Hey Lady 優しくなれるかい』らと、化粧品CMソング戦争が繰り広げられ、その相乗効果もあったのかもしれません。1980年代に突入したばかりの時期でのこの展開は、まさに1980年代は女性の時代が来るぞという、仕掛けのようなものがあったのかもしれません。『唇を、熱く君を語れ』も大ヒットし、オリコン最高4位、売上42.6万枚と、渡辺真知子は見事に復活を果たしたのでした。ちなみに戦争を繰り広げた最大のライバル『不思議なピーチパイ』もオリコン3位、売上39.2万枚と、ほぼどっこいどっこいの実績を残しています。

 

 さて、アップテンポの曲でもその作曲センスを証明した渡辺真知子ですが、作詞は東海林良が担当。かなり多くの歌手に作品を提供してはいますが、大ヒットしたという曲は実はこの『唇よ、熱く君を語れ』ぐらい。あとは石川さゆり『沈丁花』が目立つ程度です。しかしながら『唇よ、熱く君を語れ』については、ヒットしただけあって、都会の中で輝く女性を生き生きとそしてかっこよく表現しており、女性の応援ソング的な部分でも魅力的な歌詞になっていました。《南風は女神 絹ずれの魔術》《去年越しの人は シルエット・シャドー》《ウィンドーに映る 孤独な狼》等々、独特の表現がとてもおしゃれに感じられますね。

 

 1980年のCMでは、たくさんの女性が明るい日差しの下で更新する姿が、この曲に合わせて流されていましたが、2020年にも見事にこの曲がCMで復活したのですよね。もっとも歌っているのは別の歌手のようでしたが、それでも40年の時を経て、再びCMに起用されるということは、やっぱり曲が良かったということは間違いないでしょう。当時を知る人が、今の若い人にもこの曲を聴いてほしいと思ったのかどうかはわかりませんが、名曲が再び掘り起こされて歌い継がれていくということは、素敵なことだと思います。もっともっとそんな例が増えると嬉しいななんて、個人的には思っています。