80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.184
めまい 石野真子
作詞 有馬三恵子
作曲 川口真
編曲 船山基紀
発売 1980年7月
コミカル路線から脱皮し、大人の歌手への転換を目指した、区切りとなる石野真子10thシングル
石野真子のデビューは1978年3月の『狼なんか怖くない』で、この曲はオリコン最高17位ながら、10.4万枚を売り上げ、この年の新人賞レースでは多くの賞を獲得しました。翌1979年9月発売の7thシングル『ジュリーがライバル』では、デビュー曲以来の10万枚越えとなった10.8万枚を売り上げ、NHK紅白歌合戦にも出場、さらに1980年1月発売の8thシングル『春ラ!ラ!ラ!』はオリコン最高16位、売上16.0万枚とキャリアハイの結果を上げ、アイドル歌手としての絶頂期を迎えて、1980年代に突入することになりました。
石野真子の楽曲はそれまで、コミカルな味付けの作品が多く、前述の『ジュリーがライバル』では、当時のトップスター沢田研二の愛称をタイトルに使ってみたり、『春ラ!ラ!ラ!』では漢字の春という字を分解して「三人の春」から始まる奇想天外な三角関係を歌ってみたりと、あっけらかんとした明るい曲をシングルとして選んでいました。極めつけは『ワンダー・ブギ』(1979年7月)で、鯨の上で踊る娘のゆらゆら揺れているビキニを鴎がはずしてしまうという、今だったら生物保護団体から抗議を受けたり、セクハラだといって発売中止しろといわれたり、そんな内容の歌を、ニコニコして歌っていたのですよね。ただいつまでもその路線を続けてはいけないだろうということで、10枚目になったところで、やや大人の雰囲気の曲に転換してきたのが、今回取り上げた『めまい』でした。
『めまい』はそれまでのシングル曲では組んでいなかった作詞家、作曲家を使ってきたというのも、その表れではないでしょうか。作詞の有馬三恵子は1960年代終盤から1970年代を中心に活躍した作詞家で、代表曲としては伊東ゆかり『小指の想い出』、伊丹幸雄『青い麦』、金井克子『他人の関係』、野口五郎『季節風』、布施明『積木の部屋』、南沙織『17才』などがあり、実績は十分。一方作曲の川口真も当時としてもそろそろベテランの域に差し掛かろうかというぐらいのキャリアで、代表曲としては岩崎宏美『熱帯魚』、河合奈保子『愛してます』、金井克子『他人の関係』、西城秀樹『サンタマリアの祈り』、内藤やす子『弟よ』、布施明『積木の部屋』、由紀さおり『手紙』などがあります。それまで主に起用してきた阿久悠、筒美京平、馬飼野康二といった時代のど真ん中をいくトレンドの曲よりは、少し落ち着いたところを狙ってきたのでしょう。そのとおり、歌詞も曲もそれまでよりは大人の感じになり、特にサビのメロディーも美しい楽曲に仕上がっていました。個人的にも結構気に入っている曲です。
歌詞の方もだいぶアダルト路線に舵を振ってきていて、前作までのコミカルな要素は封印しています。《今あなたの息づかいを聞いて もうあやしく抱かれてみたい》《くちづけされる真似をして 瞳とじる》《あなただけが 私のメロディー からだじゅう 指ではじいてピアノにするの》と、ファンにしてみるとドキッとするようなフレーズもあったりするのですよね。歌の方もデビュー時に比べるとだいぶ上手になってきていて、そろそろ聴かせる歌も行けるだろうという思惑もあったのでしょうね。実績的には、最高順位は24位ではありましたが、9.9万枚とそこそこの売上を残しました。
その後は結婚を機に芸能界から身を引きますが、すぐに離婚して復帰。女優業を主軸に活動を続け、再婚、またまた離婚とプライベートはいろいろありましたが、お仕事は安定していて、還暦を迎えた今も変わらない明るさで活躍し続けていますね。