80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.181
19:00の街 野口五郎
作詞 伊藤薫
作曲 筒美京平
編曲 川村英二
発売 1983年1月
5年ぶりに10万枚を突破、低迷していたレコードセールスを久しぶりに押し上げた、野口五郎起死回生の一曲
野口五郎がヒットチャート上位を席巻していたのは1973年から1978年頃にかけてで、21曲連続でオリコントップ10入りを果たしていましたが、その21曲目1978年9月発売の『グッド・ラック』を最後に、トップ10に新曲を送り込むことが叶わなくなります。また売上枚数も1979年4月発売の『真夏の夜の夢』を最後に、10万枚に届かなくなってしまいます。新御三家として括られたライバル西城秀樹や郷ひろみは、1980年代に入ってもトップ10に新曲を送り込んでいたので、野口五郎はこの時期、やや差をつけられているような状況であったことはいえるでしょう。そんな中、久しぶりに売上10万枚を突破(17.7万枚)し、オリコンチャートも最高16位を記録するスマッシュヒットとなったのが『19:00の街』でした。
『19:00の街』のヒットにはテレビドラマ『誰かが私を愛してる』の主題歌として起用されたことが大きくて、ドラマには野口五郎自身も出演していました。この曲はオリコンでは最高16位でしたが、テレビのランキング番組では10位に入りましたし、紅白にも復活出場しているなど、実績以上にヒットしている感覚はありましたね。また私の棲む静岡県では、当時ラジオのベスト10番組が人気でしたが、地方局のベスト10番組は、全国ネットのランキング番組とは違うローカル特有の個性が現れていて、野口五郎と西城秀樹は地元出身でもないのに不思議と強かったのを記憶しています。この『19:00の街』も何週間もベスト10入りし、いつのまに歌詞もソラで覚えてしまったものです。
作詞は伊藤薫。他のヒット曲で有名なのは欧陽菲菲『ラヴ・イズ・オーヴァー』ですね。そして作曲は筒美京平御大。筒美京平は野口五郎のヒット曲の多くを手掛けてきていて、いくつか挙げると『オレンジの雨』(1973年3月)、『甘い生活』(1974年10月)、『針葉樹』(1976年9月)、『季節風』(1977年7月)、『風の駅』(1977年10月)、『グッド・ラック』(1978年9月)、『真夏の夜の夢』(1979年4月)などなど、多くの野口五郎には欠かせない作曲家でした。しかし1980年6月発売の『さすらい気分』を最後に、しばらく野口五郎の作品からは離れていたのです。やはりここぞというときには筒美京平頼みだったのでしょう。約3年、8曲ぶりに筒美京平の登場となった途端に、復活のヒットとなった次第でした。
『19:00の街』の歌詞は、都会の夜の中で繰り広げられる刹那的な男女の営みを描いたような大人な作品です。ドラマのイメージにも合わせたのでしょうか。《霧雨降る ガラス越しに》《低い雲 立ち込めて 摩天楼包んで》《都会は海 人は砂漠 愛は蜃気楼》《光と影 線を描き 車が過ぎる》《肩先の凍てついた 雫さえそのままで独り》と都会の冷たさをイメージさせるワードが並べられ、その中で繰り広げられる男女の恋模様を《あなたの心の中に 傷ひとつも残せないで 愛と呼べるはずもない》《女は息 男は汗 夜を重ねて》《わかり合い くい違い 生きる旅人》と報われないやるせなさを感じさせる言葉で綴っています。まさにアドルト路線の五郎といったところで、かつてのイメージとはまた違うこの曲で、見事復活を果たしたのでした。
ただ野口五郎にとってのヒット曲とよべる作品は、残念ながらこれが最後になってしまいます。それが世代交代というものなのでしょう。ただ西城秀樹は1990年代、郷ひろみに至っては2000年代でも10万枚越えのヒットを放ったことを考えると、だいぶ早くヒットチャートの一線から消えてしまったのは残念ではありました。