80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.176

 

サヨナラ模様  伊藤敏博

作詞 伊藤敏博

作曲 伊藤敏博

編曲 大村雅朗

発売 19818

 

 

 

現役国鉄社員としても話題になったポプコン出身のフォーク系シンガー・ソング・ライター、「ねえ、ねえ」と繰り返すフレーズのインパクトが強烈なデビュー曲

 

 19815月のヤマハポピュラーコンテストでグランプリを獲得し、そのまま国鉄に勤めながら、レコードデビューを果たしたのが伊藤敏博です。今までにも触れてきましたが、特に1980年前後のポプコンの威力は絶大で、多くの新人アーティストを世に送り出してきました。ちなみに伊藤敏博の次のグランプリが『完全無欠のロックンローラー』のアラジンです。もちろんグランプリをとれば必ず売れるというわけではなく、鳴り物入りでデビューしても鳴かず飛ばすで終わってしまうミュージシャンもいるわけですから、デビュー曲でオリコン最高5位、売上47.9万枚という数字はまずは大成功といっていい結果でしょう。

 

 『サヨナラ模様』の作品自体は正統派のフォークソング系統の曲といっていいでしょう。透き通った伊藤敏博のボーカルが美しいメロディに見事に調和して、黙って聴き入ってしまうようなそんな失恋ソングです。80年代の前半までは、まだまだフォーク系の作品がヒットチャートに入ってくることも多く、松山千春やさだまさしといった大物からばんばひろふみ、雅夢、チャゲ&飛鳥、村下孝蔵と、ヒットの土壌というものは十分にあったといえるでしょう。ただその分ライバルも多いともいえるわけで、そんな中で『さよなら模様』がヒットしたというのは、サビのインパクトが大きな要因であったことには違いないでしょう。

 

 女性主人公で歌われているこの歌詞ですが、サビで何度も繰り返される「ねェ ねェ」がとにかく印象に残ります。それも最初はわりと穏やかにも数も控えめに《だから ねェ ねェ ねェ ねェ》とワンフレーズ4回に抑えていたものが、終わりが近づくと《だから ねェ ねェ ねェ ねェ ねェ ねェ》と早口に6回に増え、そして最後の2セットでは「だから」までも省いて《ねェ ねェ ねェ ねェ ねェ ねェ ねェ ねェ》と8回もまくしたてるようになってくるのです。この数がどんどん増えていくところが味噌で、歌いながら感情が高ぶっている様子を巧みに表現しているのですよね。とにかくこの曲を聴く人たちは、伊藤敏博が歌いだすと、早く「ねェ ねェ」を聴かせろよ!という気持ちになるわけです。ところが、また曲の前半はとにかくもったいぶること。このサビに入るまでにお預けをくらわすような静かな構成が心憎く、このあたりも成功した要因だったのではないでしょうか。

 

 この曲のヒットでも音楽番組にも出演するようになった伊藤敏博でしたが、身分は国鉄職員ということで、だいたい夜の駅から中継で歌うということが多かった印象です。この曲がチャート上位に挙がってきたのも、秋から冬になろうとかというそんな時期でしたから、妙に寂しい歌詞が季節にもぴったりはまったというのもあるでしょうね。

 

 伊藤敏博ですが、『景子』(198310)といった佳曲も残していきますが、チャート上位へヒット曲を送り込むことはなく、俗にいう一発屋的な存在にはなってしまいます。民営化に伴い国鉄も退職されたということですが、地道に音楽活動は続けられているようですね。