80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.174

 

勇気のしるし~リゲインのテーマ~  牛若丸三郎太

作詞 黒田秀樹

作曲 近藤達郎

編曲 近藤達郎

発売 198911

 

 

 

まさにバブル絶頂期を象徴するCMソング、戦い続けるサラリーマンを鼓舞する熱血応援歌

 

 CMのキャッチコピー「24時間、戦えますか」が一世を風靡することとなった、栄養ドリンク〈リゲイン〉。バブル期を象徴として、今でもたびたび引き合いに出されるフレーズですが、あまりにもの反響に、CMに出演していた時任三郎が牛若丸三郎太を名乗ってリリースしたのがこの『勇気のしるし』です。CDも瞬く間にヒットし、オリコン最高2位、売上41.0万枚という大きな実績をあげてしまったのでした。

 

 当時はまさにバブル絶頂期。サラリーマンは寝る間を惜しんで働き続けることで、ガッポガッポとお金が入り続けるものだという世の中の風潮の中、そんなサラリーマンたちに、栄養ドリンクでエネルギーを補給して、今日も明日も明後日も、とにかく働け働けと鼓舞しつづける熱血応援歌のような存在が『勇気のしるし』だったのです。こんな歌が毎日毎日堂々とテレビで流され続けていたわけで、やれワークライフバランスだ、やれサービス残業はするな、やれコンプライアンス違反だという今の時代では、到底許されないのではないでしょうか。しかし「24時間戦い続けろ」という無理、無茶がまかり通ったのがバブル時代なのですね。

 

 しかもこの歌、他のCMソングのように、アーティストの歌をイメージソング的にかぶせるような類のものではなく、商品名を連呼する昔ながらの王道CM曲で、おそらく最初はCDリリースなどは予定していなかったのではないでしょうか。いかにも熱血サラリーマン風の時任三郎が、「24時間戦えますか」というメインのコピーと商品名を連呼し、商品を印象づける、ただそれだけを目指して作られたCM曲に思えます。それが証拠に、作詞の黒田秀樹はCMディレクターですし、作曲の近藤達郎も音楽チャートを賑わすような曲を手掛ける作曲家ではなく、CMとか演劇とか映画とかの音楽を手掛ける作曲家で、自ら演奏家としても活躍するミュージシャンなのです。ですからこの曲の大ヒットは、いわゆる棚ぼただったのでしょうね。

 

 もっとも時任三郎は実は歌手としても実績があり、1981年に発売した『川の流れを抱いて眠りたい』はドラマの挿入歌に起用され、オリコン最高29位という実績も残しているのですよね。それ以降もコンスタントにシングルを発売していて、歌手としての自負もあったことと思います。そんな時任三郎の最大のヒット曲が実は『勇気のしるし』だったということは、ご本人は結構複雑なところもあるのではないでしょうか。

 

 アタッシェケースを片手に《ペキン、モスクワ、パリ、ニューヨーク》《カイロ、ロンドン、イスタンブール》とワールドワイドで活躍するジャパニーズサラリーマンの奮闘ぶりを歌ったこの曲、当時のヤング・サラリーマンたちにとってはかっこいい理想の姿であったことでしょう。24時間戦い抜いたものだけが《有給休暇》や《年収アップ》を手に入れることができる、過酷でも一生懸命働けば、その先に大きな結果が待っている。当時残業残業休日出勤で働き詰めのサラリーマンたちは、この歌に背中を押されて走り続けたのでしょう。そんな時代も今は昔。