80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.173

 

夏模様  柏原芳恵

作詞 微美杏里

作曲 松尾一彦

編曲 萩田光雄

発売 19836

 

作詞女優藤真利子+作曲その他オフコースという異色の組み合わせによる、アイドル歌手の夏の失恋ソングの隠れた名曲

 

 柏原芳恵は“柏原よしえのひらがな表記でデビューして、途中で漢字に変更しました。デビュー当初から順調であったわけではなく、デビュー曲『No.1(19806)はオリコン最高76位にとどまり、多くの新人の中で埋もれているような状況でした。しかしそれが少しずつじわじわと順位を上げていき、7枚目のシングル『ハロー・グッバイ』(198110)でブレイク、オリコン6位、売上38.2万枚の大ヒットとなり、一躍トップアイドルの仲間入りを果たしたわけです。ただ当時は松田聖子という最強アイドルがいて、それに続く河合奈保子、一方で花の82年組と称される有望な後輩たちが次々とデビューするなどで、柏原芳恵はいわばアイドル界の中間管理職的な立ち位置であったような気がします。

 

 データ的にみて興味深いのは、柏原芳恵(よしえ)は全18曲のオリコントップ10入りシングルを発売してきたにも関わらず、最高位は6位〈『ハロー・グッバイ』、『春なのに』(19831)『タイニー・メモリー』(19839)『カム・フラージュ』(198312)4曲〉と、1位どころかトップ5入りさえ果たしていないのです。ライバル的な存在の河合奈保子は1位も含め計8曲のトップ5入りを果たしていますし、後輩の石川秀美、堀ちえみあたりもトップ5入りは経験しているので、比べると意外な気はします。

 

しかし一方で20万枚以上売上げた曲が4曲〈『ハロー・グッバイ』、『渚のシンデレラ』(19824)、『春なのに』、『最愛』〉あり、河合奈保子の6曲と比べてもさほどそん色ないですし、石川秀美、堀ちえみには20万枚越えはありません。さらに30万枚以上ということでは2曲〈『ハロー・グッバイ』、『春なのに』〉あり、河合奈保子の1曲のみを上回っています。

 

 アイドルとしての熱狂的なファンはそこそこながらも、ファンの域を超えて一般にも楽曲が支持されて、大ヒットを生み出したというのが柏原芳恵の特徴で、その意味では「アイドル」の部分よりも「歌手」の部分で実績を残したアイドル歌手といえるような気がします。今聴いてみても歌唱力もしっかりしたものがありましたし、『ハロー・グッバイ』『春なのに』『最愛』といった代表曲が明確に存在しているというのも、強味ではないでしょうか。

 

 そんな中で今回取り上げたのが14枚目のシングル『夏模様』です。この曲はオリコン最高8位、売上15.9万枚と、ヒット度はそこそこで、前記の代表曲の陰に忘れがちな作品ではあるのですが、作品自体は夏に終わった恋を思い出して歌った、哀愁のあるせつない失恋ソングに仕上がっています。さらにこの作品は、作詞が女優の藤真利子(ペンネーム微美杏里)、作曲がオフコースの松尾一彦という異色の作家人の組み合わせであるのが特徴的で、藤真利子(微美杏里)にとってはほぼ唯一のヒット曲といっていいものです。

 

 この曲は決して派手ではないのですが、聴くたびに味わい深くなるような曲で、私自身あとになってどんどん好きになってきた曲です。

《みのまま逢えない こんな気もしてた いつからあなた変わったのですか》

…愛し合っていた二人のはずが、いつの間にか変わってしまったあなた。

《帰りのバスまで送ってくれたら いつものように手を振り返す》《はしゃぎすぎてた夏休み 終止符は小さなメモ》《季節はずれの浜に出て 足跡探してみても》

…夏の別れの日の思い出が頭の中をぐるぐるめぐる中、《ひと月経っても二月経っても 忘れられないこともあるのね》《「さよなら」それでも逢えませんか》

…未練を断ち切れない思いがせつせつと歌われています。

 

松尾一彦がなかなかいいメロディーを作るのですよね。『ひとりぼっちは嫌い』のときに振れたので詳細は省きますが、ほんとうはもっと作曲家としての実績があってもおかしくないアーティストだとは思いますね。

 

 さてこの後柏原芳恵はいろいろなアーティテストの作品を歌っていくことになります。中島みゆきとのタッグは有名ですが、ほかにも谷村新司、松山千春、高見沢俊彦、五輪真弓、宇崎竜童とバラエティに富んだ作家たちと組んで、ヒットを生み出していくことになるのです。こうしてたくさんのヒット曲が残っていったのですが、惜しいのは、現在滅多にテレビなどで往年の名曲を歌うことがないということ。懐かしの歌特集のような企画でもあまり出てきません。コンサートなどの企画はあるみたいなので、久しぶりに名曲の数々を聴かせてほしい気はしますね。

 

最後に、柏原芳恵のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 夏模様 

2 最愛 

3 カム・フラージュ 

4 悪戯NIGHT DALL 

5 ト・レ・モ・ロ 

6 第二章くちづけ 

7 ちょっとなら媚薬 

8 し・の・び・愛 

9 春なのに 

10 タイニー・メモリー 

=80年代発売