80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.170
涙、止まれ! 中山忍
作詞 森雪之丞
作曲 後藤次利
編曲 佐藤準
発売 1989年2月
アイドルとしては爆発しきれなかったものの、結果として息の長い芸能人生につながった、 偉大すぎる姉と比較されながらもがいていたころの王道アイドルソング
姉妹で芸能人というのは、どの時代でも何組か出てくるもので、女性アイドルでも、そう珍しいことではありません。ただどうしても比較されることが多く、人気に差があったり、或いはメインのフィールドを変えてみたりということも、まま見られます。中山忍もお姉さんの中山美穂がすでにトップアイドルとして活躍している中でのデビューとなりましたので、話題として取り上げてもらいやすい反面、比較されるプレッシャーというのもきっとあったことでしょう。1980年代のアイドルとしては、岩崎宏美の妹岩崎良美、荻野目慶子の妹荻野目洋子、石野真子の妹石野陽子(現いしのようこ)、原田貴和子の妹原田知世(妹が先デビュー)、石田ゆり子の妹石田ひかり(妹が先デビュー)、芹沢直美の妹おニャン子の我妻佳代など、結構存在していました。ただ双方が歌手として本格的に取り組んだのは、岩崎姉妹とこの中山姉妹ぐらいでしょう。あとはどちらかが、女優やバラエティタレントをメインに戦っていたりと、直接数字で比較されるのを避けていたようにも感じられます。そういった意味で、中山忍は堂々と勝負に挑んだということでも、たいしたものだったと思います。
デビュー曲は1988年11月にリリースした『小さな決心』で、オリコン最高18位、売上3.0万枚と、新人歌手としてはまずまずのスタートを切りました。そして同じ作詞家・作曲家・編曲家の作品による2ndシングルが、今回取り上げた『涙、止まれ!』だったのです。この『涙、止まれ!』はオリコン最高12位、売上4.2万枚と、結果として中山忍のキャリアで最高の成績を残したのでした。ただこれが最高ということは、結果としてオリコントップ10入りは叶わなかったわけで、出す曲出す曲ヒットに繋げていたお姉さんと比べてしまうと、ちょっと厳しい結果には感じてしまいます。それでも歌手としても女優としてもトップアイドルであった姉との比較の中では、よくつぶれずに頑張ったという見方もできるのではないでしょうか。
ただ売り出し戦略としては、難しかったかもしれません。姉とは差別化をしながら、ライバルたちとも戦っていかなければなりません。楽曲的には『小さな決心』『涙、止まれ!』さらなは3rdシングル『負けないで、勇気』(1989年5月、オリコン8位)、4th『夏に恋するAWATEMONO』(1989年8月、オリコン17位)と、作品としてはよく言えば正攻法、悪く言えば凡庸でインパクトが薄い印象。もっとも中山美穂の逆を狙うと、こんな感じになってしまうのも仕方ないのですよね。デビューから3曲『C』『生意気』『BE-BOP-HIGHSCHOOL』で早熟ツッパリ路線を印象付けることで、親しみやすさよりも高嶺の花的な方へ振っていったお姉さんに対し、親近感があって優しくおっとりした感じで攻めたぃのも当然の戦略。もはや同じ土俵では勝負できないところまで、お姉さんは上がってしまっていたのですし。
そんなことで『涙、止まれ!』は、兄妹のように接してきたけれど実は密かに好きだった男の子に『彼女ができた』と言われた内気な女の子の悲しみを歌った曲となっています。まさに中山忍のキャラクターと合致するような、アイドルソングとしては受け入れられやすい王道の歌詞といってもいいかもしれません。ただそれでは、姉やライバルたちを追いつき追い越していくことは難しかったかもしれません。偉大な姉を持つがゆえに、攻めきれなかったとでもいうのでしょうか。アイドルとしてはいまいちブレイクしきれないままで中山忍は終わってしまいました。当時はやはりどうしても中山美穂の妹と言われてしまうのが嫌だったとも聞きますし、そのことが歌手をやめる要素にもなったようです。
ただその後もテレビドラマを中心に、女優として地道に活動していきます。毎年コンスタントに多くの作品に出演していて、ほとんど途切れることなく続いているというのは立派なことです。結婚、休業、離婚、復帰と浮き沈みの激しいお姉さんと比べ、この点でも実に対照的。このようにその後の人生を見てみると、中山美穂、中山忍、それぞれのデビュー当時の戦略は、本人のこういったキャラクターをも見越して練られたものだとすると、たいした先見の明だったのだと感心してしまうのであります。