80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.168
摩天楼ブルース 東京JAP
作詞 売野雅勇
作曲 筒美京平
編曲 船山基紀
発売 1984年10月
DJ赤坂泰彦が所属した劇団発祥のロックバンド唯一のヒット曲は、都会ムードのアダルト歌謡ロック
東京JAP…後にDJとして活躍する赤坂泰彦が所属していたバンドということは知っていても、それ以上の情報がなかなかなくて、バンドとしてシングル6枚、アルバム4枚出しているにも関わらず、世間的に知られているのはほぼ『摩天楼ブルース』一曲のみ。一部の濃いファンを除くと、実は謎多きバンドというイメージが強い東京JAPでした。オリコントップ100に入った曲も僅か一曲であり、その唯一の曲『摩天楼ブルース』が、テレビドラマ『少女に何が起ったか』(小泉今日子主演)の主題歌に起用され、オリコン最高18位、売上10.1万枚を突然変異的に記録したのです。東京JAPにとっての5枚目のシングルであった『摩天楼ブルース』は、テレビのランキング番組などでも当時注目曲として紹介され、歌っている姿を目にしたことは覚えています。
それでもってこの曲、作詞が当時売り出し中の売野雅勇、作曲が大御所ヒットメーカー筒美京平と、実は作家による作品なのですよね。何も自分達で楽曲を作れないわけではなく、これ以前のシングルの何曲かはメンバーが作詞や作曲を行ってきてはいるのですが、ここで売れっ子作家に依頼してきたということは、テレビドラマの主題歌採用を機会に売り込むチャンスだと睨んでのことなのでしょうね。想像ですが…。おかげでその目論見は見事にはまり、二けた万枚を超える売上を残したわけですから、短期的には成功であったといっていいでしょう。
『摩天楼ブルース』はそのタイトルからもわかるように、大都会を舞台にした寂しい大人の恋を歌った曲で、曲調も歌詞もそして当時の歌っている映像の雰囲気も、とにかく色っぽい、艶っぽい感じなんですね。当時はチェッカーズとかSALLYとか、ちょっと少年さの残る可愛い感じのバンドの人気が盛り上がってきた時期なのですが、その対極を狙った感じだったのでしょうか。夜の都会の中、他の男に抱かれてきた女に対し、別れの言葉を言い出せずに、それだけでなく愛を口にしてしまう虚しさ悲しさ寂しさを綴った歌詞は、歌って盛り上がるチェッカーズの歌たちとは正反対の、曲の中に入り込んで歌い上げる、ある意味ナルチシズムを満たすようなタイプの曲です。一曲聴くにはいいけれど、続けて聴くととてつもなく気分が落ち込んでしまいそうな、そんな歌ですね。かといって、とってもおしゃれな雰囲気とか、トレンド感満載とか、そういった領域でもなくて、むしろどこかムード歌謡のような匂いさえ感じさせるのです。中途半端にムーディでダサい、もちろん筒美京平はそのあたりも狙って作ったのでしょうし、それだからこそ無名バンドにヒット曲をプレゼントすることができたのも間違いないでしょう。ただ、このバンドに対して「もういっちょおかわりっ!」という気持ちになった人は少なかったというのが現実でした。
次のシングルはまたオリコン100位圏外に逆戻りし、すぐに東京JAPの存在は忘れ去られてしまったのです。そんなわけで、どこか不憫にイメージが残るバンドとして、私の中では東京JAPは残っているのです。