80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.165
それは彼女のグッバイ 富田靖子
作詞 麻生圭子
作曲 柴矢俊彦
編曲 大塚修司
発売 1988年7月
映画やドラマのかたわら、コンスタントに歌も出していた期待の若手女優による、女の子の友情ソング
富田靖子といえば、まずは女優さんというイメージでしょう。映画「アイコ十六歳」でデビューしてから、大林宣彦監督作「さびしんぼう」「姉妹坂」、市川準監督作「BU・SU」などの話題作に次から次へと出演し、期待の若手女優として引く手あまたの活躍を見せていました。しかしその一方で1983年11月に『オレンジ色の絵葉書』で歌手デビューすると、その後もコンスタントにシングルレコードをリリース、歌手としての活動も行っていたのです。アイドル的要素も兼ね備えていた富田靖子は、軸足を女優業に置きながらも、歌手としてもわりと積極的に取り組んでいたのですね。
デビュー曲『オレンジ色の絵葉書』はオリコン最高99位だったのですが、新曲を出すごとにその順位を上げていき、7枚目の『私だけのアンカー』(1987年4月)では最高25位とトップ30入りが叶い、8枚目『悲しきチェイサー』(1987年10月)が26位、9枚目『元気ですか?』が自己最高の22位と、安定してトップ30入りを果たすようになっていたのです。そんな状況の中での10枚目シングルが、今回取り上げる『それは彼女のグッバイ』なのです。そして結果から記すと、この曲も最高29位とトップ30入りの実績を残したのでした。
この『それは彼女のグッバイ』の歌詞ですが、これがなかなかせつない感じなのです。ただよくある男女の恋愛に関するせつなさではなくて、女同士の友情に関わるせつなさということで、わりと珍しいタイプの作品なのですよね。作詞は麻生圭子ですから、女性の前向きな気持ちと切ない気持ちの混合したような繊細な心の内を上手に描いています。浅香唯『セシル』の時に作品を紹介していますので、今回は触れませんが、そんな彼女の良いところが現れた作品だと思っています。《パジャマの袖 つっつきあって遊んだよね》《映画を観て同じシーンで泣けたことを》と、一緒にお泊りしたり、映画を観たりと青春時代を過ごした「彼女」との思い出を懐かしみながら、《笑顔で手を振る キミが今遠くなってく》《悲しいけれど人は自由さ 新しい出会いにエール送るよ》《Good-bye それは彼女の生き方だから だけどワタシならね ここで見てるよ》その彼女の新たな旅立ちにエールを送る、そんな友情が歌われているのです。
歌唱力的には富田靖子は決して上手ではありませんが、素朴で飾らない彼女の印象が、この曲にはぴったり合っていたのではないでしょうか。ちなみに作曲の柴矢俊彦はそれほど有名な作曲家ではありませんが、他のヒット曲としては南野陽子『吐息でネット』『涙はどこへいったの』があり、曲調としては、『それは彼女のグッバイ』と似たようなタイプといえそうです。
しかしながら富田靖子は、この後1曲だけシングル『恋かくれんぼ』(1990年11月)をリリース(コラボシングルは1992年にもう1曲出ています)すると、歌手活動に見切りをつけて、アイドル女優から大人の女優へとなるべく、女優業に専念していくことになるわけです。