80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.164

 

バナナの涙  うしろゆびさされ組

作詞 秋元康

作曲 後藤次利

編曲 後藤次利

発売 19861

 

 

 

思春期の男の子と女の子のちょっとエッチで微妙な恋心を歌う、おニャン子から輩出されたコンセプトユニットの最大ヒット曲

 

 おニャン子クラブのメンバー高井麻巳子と岩井由紀子からなる二人組のうしろゆびさされ組は、198510月にユニット名と同じタイトルの『うしろゆびさされ組』でシングルデビューし、アニメ『ハイスクール!奇面組』の主題歌にも起用され、オリコン最高5位、売上20.9万枚と上々の成績を残しました。その勢いによって発売された第2弾シングルが『バナナの涙』であり、1986年の前半というのは、おニャン子クラブ自体が最も勢い時期でもあり、この曲はオリコン1位、売上30.1万枚と、うしろゆびさされ組最大のヒット曲になりました。

 

 おニャン子クラブからは、後にニャンギラス、うしろ髪ひかれ隊などといったユニットがデビューしていますが、その先陣を切ったのがうしろゆびさされ組です。メンバーの中ではおっとりとして落ち着いたイメージのあった高井麻巳子と、仕草がユーモラスでどこかこどもっぽい雰囲気の岩井由紀子(ゆうゆ)による二人組は、楽曲にも二人のキャラクターが生かされ、可愛いけれどどこかコミカルでちょっぴりエッチ、そんな歌がシングル曲として選ばれてきました。その典型的な曲が、この『バナナの涙』ということになるでしょう。

 

作詞・作曲はおニャン子の黄金コンビ秋元康&後藤次利で、うしろゆびさされ組の全シングル6曲は、すべてこのコンビによる楽曲になります。その分コンセプトも明確で、うしろゆびさされ組の楽曲はこの二人にしか歌えないだろうものばかりで、そのあたりは結構練られて作られたのではないでしょうか。『バナナの涙』は前作に続いて『ハイスクール!奇面組』のテーマ曲に起用され、以降もすべてのシングルがテーマ曲として採用されています。ただ『バナナの涙』だけはエンディングのテーマ曲で、その他5曲はオープニングで使用されました。

 

タイトルの「バナナの涙」という言葉が、いろいろ想像させる意味深なワードになっていまして、『セーラー服を脱がさないで』でデビューしたおニャン子クラブからの派生ユニットということもあり、かなり秋元康も狙ったのでしょう。いうまでもなくバナナとはある物の比喩ですね。ある物とはおそらく男性を象徴するものであり、そこから出てくる涙ということで、穏やかな意味合いでは男の子の涙、もっときわどい意味合いでは、いわゆるがまん汁的なものを想像させるところまでを狙っていると思われます。男の子と女の子が二人で渚に来てはしゃいでいたところ、男の子が《真赤な夕陽が落ちたら 不機嫌》になってしまいます。なぜかというと《こんな風に友達でいるのは 僕は嫌だよ》ということなのですね。要するに、二人の関係をもっと先に進めたいと、そういうことなのでしょう。《瞳にキラリと光る バナナの涙》と目に涙まで浮かべて。これに対して女の子、《どうしましょう 女の子の気持ち BIMYOO(微妙) あせるわ マイッタ》としながらも《恋人みたいにイチャイチャもいいけど 恋ってそんなに甘くないのよ》と諭すようになだめたあと、《馬鹿ね こっち向いて髪をかきあげて とっておきのキスをしてあげるわ 世話がやけるね》と、まあ、完全に女の子の方が上手で余裕があるということなのです。

 

何せいきなり《バナナんボー バナナんボー》で始まる歌詞ですから、一見ふざけた歌かと思ってしまうのですが、いろんな小技が埋め込みながら、10代の微妙なお年頃の男の子と女の子の気持ちや成長具合を如実に表していて、実は本当によくできている歌詞なのです。

 

うしろゆびさされ組はその後も『象さんのすきゃんてぃ』(19865)『渚の『…』』(19868)『技ありっ!(198611)と、思春期の男の子と女の子の恋愛や性に対する興味や気持ちを絶妙に表現した楽曲を歌い続け、別れを歌ったラストソング『かしこ』(19872)まで、5曲連続でオリコン1位を獲得するなど、安定した実績を残しました。ソロ歌手やユニットを多く輩出したおニャン子クラブの中でも、特異な存在として人気を保ち続けたのは、二人の個々の人気もありますが、それ以上に明確なコンセプトに因るところが大きかったのではないかと個人的には思っています。