80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.163
マリアンヌ ジャッキー・チェン
作詞 五輪真弓
作曲 五輪真弓
編曲 後藤次利
発売 1983年11月
人気絶大の香港の映画スターが、五輪真弓の作詞作曲でスマッシュヒットさせた日本デビューシングル
いうまでもなくジャッキー・チェンは香港が生んだ世界的アクションスターで、1980年代に入り、『キャノンボール』など米国資本が入った映画にも進出し始めたころ、実は日本でシングル・レコードも発売していたのです。その最初の曲、つまり日本におけるデビュー曲が『マリアンヌ』でした。この曲はなんと作詞・作曲を五輪真弓が担当し、編曲を後藤次利と、なかなかの力の入りよう。そして売上もオリコン最高15位、売上枚数12.1万枚と、実はなかなかのヒットとなったのです。この香港が生んだスターに対し、当時の日本ではどこかアイドル的な要素も持ち合わせていたのですね。
この『マリアンヌ』は、五輪真弓の曲であることから当然アップテンポのポップな曲であるはずもなく、スローなラブソングです。歌詞も五輪真弓ですから奇をてらった歌詞など書くはずもなく、ゴリゴリの恋愛ソング、それもいなくなった愛する人を想い、もう一度逢いたい気持ちをとつとつと綴った傷心ソングなのです。いきなり《マリアンヌ 君は今 どこにいるのだろう》で始まり、《二人逢ったのは 夏の海だった 靴を脱ぎ捨てて 貝殻をよけて 僕にかけてきた 君が悲しい》と、まあ未練たらたらなこと。《I love you 僕のことを忘れたの マリアンヌ マリアンヌ》と、激しいアクションで魅了する国際的スターが、なんと女々しいこと。なぜデビュー曲にこんな曲を選んだのかある意味謎な感じもするわけです。2コーラスめになっても、その女々しさはさらに拍車をかけていきます。《白いスカーフで髪を結んでた 僕が抱いた時 風に揺れていた そして秋が来て 君はもういない》と、夏が終わって秋になった今、あれだけ愛した人はもういないのに、思いを馳せては募るばかり…。
こんなラブソングを歌うわけですから、歌はどれだけうまいのだろうと期待するわけですが、残念ながら天は天才アクションスターに二物を与えなかったようです。ただでさえたどたどしい日本語なのですから、もっとノリのいい曲でごまかす手もあったように思うのですが、もしかすると五輪真弓のファンだったりしたのでしょうか。ただそれでもこれだけ売れたというのは、いかに当時のジャッキー・チェン人気が凄まじかったかということでしょう。海外の人気映画スターの日本語で歌った歌が、日本のチャートのトップ20に入ってくるなんてことがどれだけあるでしょうか、ほぼないでしょう。歌手を専業としているアーティストによる世界的ヒット曲であっても、日本のチャートのトップ20に入ること自体、そう数多くあるわけでもありませんからね。
この後ジャッキーは、映画の主題歌だったり、日本の作家による日本語の歌だったり、何曲かをリリースしてオリコントップ100に送り込んでいきました。今でもジャッキー・チェンは映画スターには違いないですが、1980年代のジャッキー・チェンはそれ以上のアイドル的な人気も兼ね備えた、憧れの存在だったのですね。