80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.159
MAY 斉藤由貴
作詞 谷山浩子
作曲 MAYUMI
編曲 武部聡志
発売 1986年11月
内気な女の子の秘めたる恋心を歌った、代表曲の陰に隠れがちな斉藤由貴の名曲
斉藤由貴の代表曲としてまず第一に紹介されるのは、デビュー曲の『卒業』(1985年2月、オリコン最高6位)であり、今でも卒業ソング特集などでは、必ず流される卒業ソングの定番曲でもあります。ではその次の代表曲というと、おそらく『悲しみよこんにちは』(1986年3月、オリコン最高3位)ということになるでしょう。実際私も大好きな曲であり、ちょうど大学入学のために上京した春に流行していたということもあって、この曲を聴くたびに上京の春を思い出してしんみりしてしまうのですが、人気アニメ『めぞん一刻』の主題歌であったり、紅白歌合戦で歌唱した曲でもあったりしたことから、一般人気も高い曲になっています。ただアイドル時代の斉藤由貴の楽曲はこれら以外にも名曲揃いであり、『白い炎』(1985年5月、オリコン最高5位)、『初戀』(1985年8月、オリコン最高4位)、『青空のかけら』(1986年8月、唯一のオリコン1位獲得曲)、『砂の城』(1987年4月、オリコン最高2位)等々、タイプは違ってもいずれも質の高い作品ばかりです。そんな中でも今回は、1986年の冬に発売された可愛らしいラブソング『MAY』をとりあげます。
で、『MAY』なのですが、斉藤由貴の代表曲としてテレビなどで挙げられることはほとんどないのですが、でもそれらに負けず劣らずの、これがかなりの名曲なのです。作詞の谷山浩子はラジオのオールナイトニッポンでも人気だったシンガーソングライターでしたが、斉藤由貴には詩を提供することが多く、他には『土曜日のタマネギ』(1986年5月、オリコン最高6位)でも詩を提供しています。作曲のMAYUMIは異色の経歴で、そもそもは堀川まゆみとしてモデルや女優、歌手として活躍していたのが、MAYUMIと改めて、DJとして、作曲家として活動するようになったということです。他の作品としては、酒井法子『イヴの卵』、小比類巻かほる『長く熱い夜』、稲垣潤一『僕ならばここにいる』などがありますが、なんといっても『MAY』は出色の出来栄えといっていいでしょう。
なんといっても歌詞が可愛らしくて、キュンキュンきちゃうのですよね。あなたのことを好きで好きでたまらないのに、その「好き」の一言を口に出せない内気な女の子のせつなくも熱い気持ちが歌われていて、斉藤由貴のシングルの中でも、最も「可愛い」に振れた歌になっていると思います。《あなたしずんでても なぐさめの言葉は 百も思いつくけど どれも言えない 噴水の虹を見ているふりで 「きれいね」とつぶやくだけ》《MAY 声に出して呼びたいな でもこれ夢だから 醒めると困るからダメ》《ばかね私 あなたを喜ばせたい なのに この夢から出られない 少しうつむいて微笑むだけ》と、どこまで内気なんだよと突っ込みたくなるような思いが並んでいるのですが、《だけど好きよ 好きよ好きよ誰よりも好きよ》と気持ちはなかなか熱いものがあるのです。そんな思いを乗せた詩が、きれいでありながら、サビでは秘めた思いがあふれ出すようなメロディーが見事にはまって、ほんとうに素敵な作品に仕上がっているのが『MAY』なのです。この曲が発売されたのが11月であったことと、アレンジの感じからして、個人的には冬の寒空のイメージが強かったのですが、実際には《噴水の虹》とか《木もれ陽》とかあるので、日差しの温かい昼間にデートしているようなときの歌なのでしょうね。
斉藤由貴はデビューしてからの2年間に8曲のシングルを発売して、いずれもトップ10に送り込む活躍をしていましたが、その後は1987年2曲、1988年ソロシングル1曲、デュエット1曲と歌手活動のペースは落ちていき、女優業へと活動の中心がシフトしていきます。しかしアイドルとしての活動が集約された最初の2年の音楽活動は実に充実して、内容の濃いものであったといえるでしょう。斉藤由貴の人生活動は、その後たびたびのスキャンダルもありながらも、現役で活躍し続けることができているというのも素晴らしいことだと思いますが、今がどうであっても、アイドル時代の数々の楽曲の輝きは今でもけっして色あせることのないものだと思っています。
最後に、斉藤由貴のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 悲しみよこんにちは ★
2 MAY ★
3 初戀 ★
4 白い炎 ★
5 砂の城 ★
6 青空のかけら ★
7 卒業 ★
8 土曜日のタマネギ ★
9 夢の中へ ★
10 情熱 ★
★=80年代発売