80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.156
桃色吐息 高橋真梨子
作詞 康珍化
作曲 佐藤隆
編曲 奥慶一
発売 1984年5月
カメリアダイヤモンドCMの力を借り、圧倒的な歌唱力で魅了する女性ボーカリストが放った、ソロとして最初の大ヒット曲
ペドロ&カプリシャスの二代目ボーカリストとしてデビューした高橋真梨子は、『ジョニイへの伝言』『五番街のマリーへ』がともに売上枚数20万枚以上のヒットとなり、紅白歌合戦への出場を果たします。そして1978年にグループを脱退してソロ歌手としてデビューしました。1982年3月に発売した『for you…』はのちに高橋真梨子の代表曲の一つとして数えられるような作品になっていきますが、当時はまったく売れず、オリコントップ100にも入ることはありませんでした。そんな中で1984年5月に8枚目のシングルとして発売されたのが『桃色吐息』でした。この曲は三貴カメリアダイヤモンドのCMソングに起用されると、その効果もあって広がりを見せ、オリコン最高4位、売上36.8万枚のヒットとなったのでした。
カメリアダイヤモンドはその後CMで使った曲をたびたびヒットさせていくことになりますが、その最初のヒットが『桃色吐息』だったといっていいでしょう。その後は鈴木聖美withラッツ&スター『ロンリー・チャップリン』、B’z『太陽のKomacki Angel』『Easy Come, Easy Go!』、KATSUMI『危険な女神』、REV『甘いKiss Kiss』、久宝留理子『男』など多くのヒット曲を生み出すことになる、そのまさにきっかけになったのが『桃色吐息』でした。当然ターゲットは大人になりますので、曲そのものも妖しくて艶やかな大人の曲に仕上がっていて、それを高橋真梨子が見事なボーカルで、曲に命を与えています。当時10代の私にしてみれば、この歌の大人の魅力にはなかなかピンとこないところはあったのですが、後になって改めて聴くと、やはり高橋真梨子の表現力のすばらしさに気づかされます。
そしてこの妖艶なメロディーを作り出したのが、自らシンガーとしても当時活躍していた佐藤隆であり、この独特の癖のあるメロディーはまさに佐藤隆の真骨頂といった印象です。他のアーティストへの提供曲としてはほかに中森明菜『AL-MAUJ(アルマージ)』、谷村新司『12番街のキャロル』などがありますが、いずれも佐藤隆らしいメロディーが特徴になっています。そのメロディーに康珍化の歌詞がのり、大人の妖艶な魅力あふれる一曲となったわけです。とにかくこの歌詞を聴いているだけで、妖しい色彩の中でフェロモンをまとった匂いが充満してくるような、そんな感覚に陥ります。《咲かせて咲かせて桃色吐息》《海の色に染まるギリシャのワイン》《抱かれるたび 素肌夕焼けになる》《金色 銀色 桃色吐息》《明り採りの窓に 月は欠けてく》…。桃色、金色、銀色、海の色、ワインの色、夕焼けの色、窓から見える夜空と月の色、吐息の匂い、ワインの匂い…、これらの要素が異国情緒感じる背景の中で織りなされる男女の恋の営みといったものを想わせ、歌の世界の中にずっぽりと引き込んでくれるのです。
この曲のヒットによって、高橋真梨子の名前は一般に浸透していくことになり、90年代の数々の大ヒット曲―『はがゆい唇』(1992年5月)、『遥かな人へ』(1994年2月)、『ごめんね…』(1996年6月)など―へとつながってくわけで、稀代の女性ボーカリストとしての地位を確立するための、まさに一つの転機となった一曲であったわけです。