80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.153

 

そして僕は途方に暮れる  大沢誉志幸

作詞 銀色夏生

作曲 大沢誉志幸

編曲 大村雅朗

発売 19849

 

 

 

大沢誉志幸の存在を一気にメジャーに押し上げたカップヌードルのCM

 

 かなり癖のある作品とボーカルで、シンガーとして、そして作曲家として活躍してきた大沢誉志幸のデビューは19836月の『彼女には判らない(Why don’t you know)。初めてオリコントップ10に登場したシングルが、4枚目の『その気×××(mistake)(19844)で、最高23位、売上11.3万枚と、その知名度を徐々に広げていき、ついに大ヒットとなったのが、19849月発売の5枚目のシングル『そして僕は途方に暮れる』でした。この曲は日清カップヌードルのコマーシャルソングに採用されたことで、多くの耳に届くことになり、その楽曲の良さから、オリコン最高6位、売上28.2万枚という実績に結び付いたのでした。

 

 『そして僕は途方に暮れる』は結果として、大沢誉志幸の唯一のヒット曲となったわけですが、これ以外の曲はわりと特有の癖があって、好き嫌いが分かれそうな楽曲が多いのです。ただ『そして僕は途方に暮れる』に関しては、誰が聴いてもいい曲だと思わせるような、質のいいバラードに仕上がっていて、ヒットしたのも当然と思わせるものはありました。大沢自身の作曲した切なげで余韻の残るメロディーが優れていたことに加えて、銀色夏生の詩が、映画のワンシーンを思わせるようで、聴いただけで映像が浮かんでくるのです。《見慣れない服を着た 君が今出ていった 髪型を整え テーブルの上もそのままに》《もうすぐ雨のハイウェイ 輝いた季節は 君の瞳に何をうつすのか》…一緒に過ごした部屋から恋人が出ていった様子を、楽しかった日々を思い出しながら、恋人に思いを馳せる、そんな男のせつない気持ちが見事に表現されています。銀色夏生は大沢誉志幸の楽曲の多くで作詞を担当していますが、他のアーティストへの詩の提供としましては、柏原芳恵『悪戯NIGHT DOLL、沢田研二『晴れのちBLUE BOY(作曲大沢誉志幸)、早見優『哀愁情句』、松本典子『さよならと言われて』などがあります。

 

 また前述のように、この曲はカップヌードルのCMにも起用されていましたが、少女のアップの映像のバックで流れるこの曲はまた雰囲気があっていいのですよね。このヒットにはCMが果たした役割というのも大きかったのではないでしょうか。可愛らしい10代前半から半ばぐらいの女の子の映像に、切なげなハスキーボイスで歌う大沢誉志幸の曲が見事に調和して、多くの人がこのレコードを買ってみようと思わせたのでしょう。大沢誉志幸の名刺代わりになるような一曲を持つことができたのは、彼の音楽人生にとっては大きな意味があったのではないかと想像をします。

 

 その後は再び癖の強い楽曲を歌い続け、おそらくヒット曲を生み出すよりは、自身の歌う曲については好きなことをやりたいという思いが強かったのではないでしょうか。ただ他のアーティストへの提供曲の中ではヒット曲をいくつか生み出していて、吉川晃司『ラ・ヴィアンローズ』『No Noサーキュレーション』、沢田研二『おまえにチェックイン』『晴れのちBLUE BOY、鈴木雅之『ガラス越しに消えた夏』『プライベートホテル』、中森明菜1/2の神話』など、やはり才能にはあふれた音楽家であったことには間違いないでしょう。