80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.148
恋の綱わたり 中村晃子
作詞 福田陽一郎
作曲 三木たかし
編曲 船山基紀
発売 1980年6月
水面下から突然浮上したかのような13年ぶりのヒット曲は、大人の色気であふれたドラマティック歌謡
中村晃子はそもそも1965年10月に『青い落葉』で歌手デビューしました。そして1967年10月に発売した『虹色の湖』がオリコン最高3位、売上35.5万枚のヒットとなり、一躍人気歌手の仲間入りを果たしたものの、その後はヒットにも恵まれずじり貧に。私自身、テレビ番組などで中村晃子という人を認識することはなく、まったく存在も知らず、1980年代に入る頃には、すでに過去の人になっていました。
ところが1980年代に突入した最初の年に、突如『恋の綱わたり』を引っ提げて、音楽のヒットチャートに不死鳥のように浮上してきたのです。当時中学生の私からすると、これはいったい誰だ?もはや新人という年齢(実際には32歳でした)でもないだろうし、どこに潜んでいたのだというほど、まったくノーマークの歌い手でした。それが中村晃子自身も出演したTBSのドラマ『離婚ともだち』の挿入歌に起用されると、あれよあれよという間にチャート上位へ進出、オリコン最高4位、売上30.8万枚というひっとになったのです。オリコンのトップ10入りは『虹色の湖』以来の役13年ぶり、トップ100ですら、1973年7月発売『あまい囁き』以来の約7年ぶりと、とにかくかなりのブランクを開けての、ヒットチャート再登場と相成ったのです。
作詞の福田陽一郎の本職は作詞家でなく、テレビのディレクター、脚本家。自身が脚本を手掛けたドラマのための挿入歌ということで、たまたま作詞を手掛けたらヒットしてしまったという感じなのです。ただ作曲は昭和の重鎮の一人、三木たかしが担当していて、このあたりはそれなりに力が入っていたこともうかがえます。三木たかしの手掛けた作品を上げればきりがないですが、いくつか挙げておくと、石川さゆり『津軽海峡・冬景色』、テレサ・テン『つぐない』、五木ひろし『追憶』、坂本冬美『夜桜お七』、といって演歌から、岩崎宏美『思秋期』、わらべ『めだかの兄妹』『もしも明日が…』、キャンディーズ『哀愁のシンフォニー』、西城秀樹『ブーメランストリート』、伊藤咲子『木枯らしの二人』、あべ静江『コーヒーショップで』、柏原芳恵『待ちくたびれてヨコハマ』といってアイドルソングまで、幅広い作品を送り出しています。
さてこの歌を歌う中村晃子ですが、当時中学生からみると、とにかく大人。曲そのものも大人ですし、歌う歌手も大人。見るものを吸い込むような大きな瞳と、ぶあつい唇がとにかくセクシーで、色気むんむん漂わせて歌う姿は、当時の歌番組の中でも、かなり異質なムードを醸し出していました。《恋の綱わたり めまいの嵐 ふたり落ちて 死に絶えるのかしら》なんと、今日では死に絶えたような昭和歌謡の世界の歌詞そのもの。まだまだこんな歌が人々の心に響く時代だったのでしょうね。
そして中村晃子はこの曲を最後に、二度とヒットチャートに顔を出すことはありませんでした。