80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.142
Tシャツに口紅 ラッツ&スター
作詞 松本隆
作曲 大瀧詠一
編曲 井上鑑
発売 1983年9月
ラッツ&スター改名後の第2弾シングルは、松本隆作詞&大瀧詠一作曲による失恋バラードの名曲
1980年代に入った途端、彗星のように現れ、ヒット曲を連発したシャネルズ。シャネルズ時代としては、『ランナウェイ』(1980年2月、オリコン1位、97.5万枚)、『トゥナイト』(1980年6月、オリコン3位、27.0万枚)、『街角トワイライト』(1981年2月、オリコン1位、71.7万枚)、『ハリケーン』(1981年5月、オリコン2位、42.6万枚)の4曲がトップ10入り、その後『涙のスウィート・チェリー』(1981年9月)、『憧れのスレンダー・ガール』(1982年3月)といった佳曲も生み出しますが、セールス面ではじり貧に。しかしながらラッツ&スターと改名して最初に出した『め組の人』(1983年4月)が3枚目のオリコン1位を獲得する大ヒットで息を吹き返し、そのタイミングでリリースした、ラッツ&スターとしての第2弾シングルが、今回とりあげる『Tシャツに口紅』になります。
結果的からいうと、どうもラッツ&スター(シャネルズ)はバラードとの相性が良くなかったのか、楽曲は良くてもなかなか大ヒットに結び付きにくいところがあるようで、シャネルズ時代のラブ・バラード『涙のスウィート・チェリー』はオリコン最高12位、この『Tシャツに口紅』も18位と、いずれもヒット曲の次のシングルにも関わらず、トップ10入りを逃しています。しかも、どちらの楽曲も出来は良くて、鈴木雅之のボーカルが生かされた素晴らしい歌になっているのにも、です。
まずはさすが松本隆、映画のシーンのような情景が浮かんでくるような、別れの描写が実に見事です。《夜明けだね 青から赤へ 色うつろう空》とまずはゆったりと青から赤へ変わっていく空の色を見せておいて、サビの部分での《色褪せたTシャツに口紅》とTシャツのぼやけた色とビビッドな口紅の赤を対比させるところが心にくいですね。また海辺の風景を描写する小道具として、驚いたように埠頭からとびたつ鴎、不思議そうな顔をしている仔犬に視線を向けさせることで、歌い手である男性が別れ話の中で、ふと我に返って周囲を見渡すことで、時間の流れを一旦止めているような効果を生み出しているように思います。そしてそんな背景描写の合間合間に語られる、男と女の思い。
別れを決めた男が、なんとか正当な理由を見つけ出そうとあれこれ言い訳を伝えるセリフがまた情けなくもせつなく響いていきます。《別れるの?って 真剣に聞くなよ》《つきあって長いんだから もうかくせないね 心に射した影》《これ以上君を不幸に 俺できないよ》…悪いのはすべて俺、お前のせいじゃない、というような方向でなんとか別れを認めさせようとしているのでしょうが、女性が放つ強烈な一言《不幸の意味を知っているの?》。これに対し返す言葉がなかったのでしょうか。《鴎が空へとび立つ 動かない俺たちを 俺たちを残して》の最後の歌詞が、まるで映画のラストシーンのように余韻を残して、曲は終わっていきます。はっぴいえんどでの仲間同士、作曲の大瀧詠一とのコンビネーションもぴったり。松本隆&大瀧詠一のコンビによる他のアーティストへの提供曲としては、太田裕美『さらばシベリア鉄道』、松田聖子『風立ちぬ』、薬師丸ひろ子『探偵物語』がありますが、その中でもこの『Tシャツに口紅』は最高傑作ではないでしょうか。
ただ残念ながら、ラッツ&スターのアーティストパワーは、すでに下り坂に入っていました。その後、ラッツ&スターのメンバーは、ソロ活動へと中心を移していきます。鈴木雅之はソロシンガーとして、ますますボーカルに磨きがかかり、ヒット曲を多数生み出していき、一方田代まさし、桑野信義はバラエティ番組を主戦場に活躍していきます。またラッツ&スターとしても期間限定で復活し、1996年にカバー曲『夢で逢えたら』がオリコン8位、売上44.0万枚のヒットとなり、紅白歌合戦にも出場を果たしました。ただこれ以後、不祥事などもあり、グループとしての本格的活動は難しい状態になったまま、現在に至るわけです。メンバーが揃った状態で、往年の名曲を聴くということは、叶わぬ願いなのでしょうか。
最後に、シャネルズ/ラッツ&スターのシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 Tシャツに口紅 ★
2 ハリケーン ★
3 街角トワイライト ★
4 憧れのスレンダー・ガール ★
5 涙のスウィート・チェリー ★
6 ランナウェイ ★
7 今夜はフィジカル ★
8 トゥナイト ★
9 月下美人 ★
10 め組のひと ★
★=80年代発売