80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.139
見えない翼 伊藤麻衣子
作詞 売野雅勇
作曲 鈴木キサブロー
編曲 馬飼野康二
発売 1985年2月
知名度のわりにシングルセールスに恵まれなかった伊藤麻衣子が、8枚目にして初めて掴んだスマッシュヒット
現在はひらがな表記にして“いとうまい子”として長く芸能界で活躍していますが、当時アイドル歌手“伊藤麻衣子”として1983年にデビューしました。当時のアイドル歌手は、まずは各局の音楽賞の新人賞にノミネートされることをまず目標に、レコード会社や事務所が売出しを一生懸命にかけるようなところがあり、伊藤麻衣子も当然その流れに乗っていくことになります。ただ、伊藤麻衣子がデビューした1983年は不作の年ともいわれ、大沢逸美、森尾由美、松本明子、岩井小百合、桑田靖子、武田久美子など、セールス的にはパッとしない感じはありました(もっとも、それぞれ独自のフィールドで、長く芸能界で活躍を続けている人が多いのは面白いです)。しかし伊藤麻衣子はその中でもレコードセールスは芳しくなく、デビュー曲から7枚のシングルの最高順位は、3枚目『秋のほほづえ』(1983年9月)の41位、売上枚数が多かったのはデビュー曲『微熱かナ』(1983年2月)の3.6万枚と、普通なら芽が出ないから、やめようか、他の分野に転向しようかという感じになってくる頃ではありました。楽曲についても、7枚目までの作詞はすべて売れっ子の売野雅勇、作曲も来生たかおや玉置浩二なども起用され、決して力が入っていなかったわけではないのに売れなかったわけですから。
ただ伊藤麻衣子の場合、女優としての主演ドラマには恵まれていて『高校聖夫婦』(1983年)、『不良少女とよばれて』(1984年)、『少女が大人になる時 その細き道』(1984年)といった話題作で主演をしていて、歌手というよりも女優としての認知度は比較的高いものがあったため、あまり「売れない感」というものはありました。ですから、コンスタントにレコードを出し続ければ、いつかは売れるかもしれないという思いはあったのかもしれません。それが叶ったのが、8枚目に出した『見えない翼』で、この曲はオリコンで14位まで上がり、売上も11.5万枚と突如二けたを越えて、自身最大のヒット曲に跳ねたのでありました。
この『見えない翼』は自身が主演を務めたテレビドラマ『婦警候補生物語』のテーマ曲に使われ、それが売上を伸ばした一番の要因になったことは間違いないでしょう。ドラマ自体は職業訓練性の青春模様を描いた作品で、当然ながら堀ちえみ主演の『スチュワーデス物語』の二番煎じ狙いだなと、誰もが考えるようなドラマではありました。それでもこれにより多くの人の耳に届くことになったのは大きかったようです。作詞は売野雅勇、作曲は鈴木キサブローと売れっ子作家による手堅い作品で、それまでの曲の路線と大きく変わるものではなかったのですが、とにもかくにもキャリア唯一のオリコントップ20&セールス10万枚超えを果たし、伊藤麻衣子にとっては大きな財産になったはずです。
このようにせっかくセールスが上昇気流に乗ったかに思えた伊藤麻衣子でしたが、この後は元の状態に戻ってしまいます。女優としての主演ドラマはヒットし、レコードもコンスタントに出せる環境に恵まれ、たれ目気味の親しみの持てる可愛いルックスと、条件は悪くなかったはずなのですが、歌手としてはなぜかあまり売れなかったというのは、当時としても、今からみても、ちょっと不思議な気はします。ただ敢えてあるとすると、マイナー調の地味な曲が多く、このあたりはドラマでのイメージから逸脱できないところもあったかもしれませんが、可愛らしさを強調したポップで明るい曲にももっと挑戦していたら、もしかすると違った流れになったのかなとは思います。それでも、その親しみやすいキャラクターは、長く芸能界で受け入れられ、活躍している姿を今も見られることは、嬉しいことです。