80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.138
孤独なハート 長渕剛
作詞 秋元康
作曲 長渕剛
編曲 瀬尾一三
発売 1984年3月
フォーク調純愛ソングからロック調の売れ線狙いへ、1980年中盤の長渕が放った、キャッチーなメロディーで聴きやすい一曲
長渕剛は1980年6月に発売した『順子』がオリコン1位、売上94.2万枚という超絶大ヒットとなり、一躍人気歌手の仲間入りを果たしました。初期の長渕剛は、ギター片手に純愛ソングを歌うスタイルで、歌う曲もフォーク的な要素の強い作品が多いように思います。しかしながら、2枚目のオリコントップ10入りとなった『GOOD-BYE青春』(1983年9月、最高5位、31.6万枚)を境に、ややロック色の強い作品へと、志向が変わっていくのです。そのきっかけとなったのが、今回取り上げる『孤独なハート』になるのではないでしょうか。
この曲はテレビドラマ『家族ゲームⅡ』の主題歌として起用され、『家族ゲーム』の主題歌『GOOD-BYE青春』に続いてのヒットが期待されたのではないでしょうか。『孤独なハート』は、長渕剛の多くのシングルの中でも、癖のない聴きやすくて耳なじみの良い曲で、良くも悪くも長渕らしさの薄い曲だと思います。ですから、長渕剛の代表曲として挙げられることまずありません。ただ長渕らしさが薄いことが、たくさんのディスコグラフィの中では、かえって異質で新鮮に聴こえ、私としては実は結構好きな曲なのです。メロディーはキャッチーでテンポが良く、歌っていても気持ちがいいのですよね。初期におけるフォーク調の純愛路線の恥ずかしくなるような長渕でもなく、また80年代後半からのくせの強い歌い方によるはみ出し者路線でもなく、曲調が最も大衆に近づいていた時期の長渕を象徴するシングルが『孤独なハート』だったのではないでしょうか。セールス的にはさほど伸びず、オリコン最高は21位でしたが、それでも売上はテレビの効果もあり、10.7万枚と4曲目の10万枚越えとなったのです(『順子』『GOOD-BYE青春』の他は1981年5月発売の『夏の恋人』)。
歌詞についても、いたってノーマルな失恋ソングとなっています。ただこの歌詞は自身による詩ではなく、作詞をしたのは秋元康。長渕剛の多くのシングル曲は自身の作詞または自身と誰かとの共作というものがほとんどなのですが、この『孤独なハート』と前作『GOOD-BYE青春』は秋元康が作詞を担当していました。当時まだまだ頭角を現し始めた新進作詞家であった秋元康ですが、ラジオで長渕剛と交流があったこともあり、楽曲の作詞をすることになったようで、そのせいで「長渕臭」のあまり感じられない、これまたくせのないスマートな歌詞が出来上がったのかもしれません。さらに、この歌詞には《愛を責めるなよ 愛を責めるなよ このまま SAY GOOD-BYE SAY GOOD-BYE》と出てきますが、このことも前作『GOOD-BYE青春』との関連をどうしても意識させる要因になっています(たまたまかもしれませんが…)。ともにドラマ「家族ゲーム」シリーズの主題歌、秋元康の作詞、そして共通する歌詞ということで、『孤独なハート』と『GOOD-BYE青春』はセットで1つ、ニコイチ的な作品といえるのかもしれません。
さて長渕剛ですが、この後『久しぶりに俺は泣いたんだ』(1985年3月、最高21位)、『勇次』(1985年7月、最高29位)、『SUPER STAR』(1986年7月、最高13位)と、このあたりまでは比較的ロック色の強いシングルを出してきます。しかしその後の『ろくなもんじゃねえ』(1987年5月、最高3位)、『泣いてチンピラ』(1987年9月、最高9位)あたりから、主演したテレビドラマとのリンクもあってか、先ほど「長渕臭」と表現した「はみだし者臭」の強い作品群へと転じていきます。そしてその路線の最たるものが『とんぼ』(1988年10月、最高1位)であり、『しゃぼん玉』(1991年10月、最高1位)という、2つのミリオンセラーに繋がっていくわけです。一方で、昔の俺とは違うんだとばかりに、初期に発表した作品をまったく別のアレンジと歌唱で録り直すことも行っていて、『乾杯』(1988年2月、最高1位)、『巡恋歌』(1992年10月、最高1位)などをヒットに繋げています。この『乾杯』の1988年から、最後のオリコン1位曲で99.0万枚を売り上げた『RUN』の1993年(9月)までが、長渕剛の全盛期といえるでしょう。
最後に、長渕剛のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 順子 ★
2 花いちもんめ ★
3 孤独なハート ★
4 ヒロイン ★
5 巡恋歌
6 夏の恋人 ★
7 JEEP
8 しあわせになろうよ
9 泣いてチンピラ ★
10 NEVER CHANGE
★=80年代発売