80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.138
NEW SEASON 森高千里
作詞 HIRO
作曲 斉藤英夫
編曲 斉藤英夫
発売 1987年5月
シンセドラムを叩きながら歌う異色のスタイルには、今となっては売り出す側の試行錯誤も感じる、森高デビュー曲
森高千里は1987年5月にこの『NEW SEASON』で歌手デビューを果たしました。今となっては、森高千里の職業は歌手であるということに対しては何の異論もないでしょうが、デビュー当時はまだどの方向に向かうのか、計りかねているようなところがありました。歌手デビューと同時に映画『あいつに恋して』で女優デビュー、一方でフジテレビ系のクイズ番組『TVハッカー』で歯科医の島田紳助のアシスタントとしてレギュラー出演。デビュー曲についても、他のアイドル歌手のように振り付けで歌うのではなく、シンセドラムを叩きながら歌うという、当時としては斬新な歌唱スタイルで、森高千里という新人はとにかくなんでもやるという印象が強かったのです。女優、CMモデル、バラエティタレント、アイドル、ミュージシャン…とりあえず何でもやらせて、その中から引っかかってくれるものがあればという感じだったのでしょうか。
その『NEW SEASON』ですが、失恋を歌いながらも、爽やかさを感じさせる聴き心地の良い曲になっています。《ゆうべ別れた恋を抱きしめてた》《愛を告げた日のVideo 巻き戻して見てた》《秘密のホリデー 夢に終わって 誰を乗せて走るの 助手席》と失ったばかりの恋に未練を残しながらも、《気が変わっても電話しないで きっとふたりは くり返せない》《テイクアウトの昨日 のみほし まぶしい光を浴びて走るわ 新しい季節》と、吹っ切って前を向こうという気持ちが歌詞に表されています。また、無機質なシンセドラムの音と淡々とした歌い方が特徴の森高の声、さらには歌詞に使われている《ファーストフード》《テイクアウト》《ステーション》といった当時としては都会的なワードが、この曲の背景を都会の冷たさのようなものも与えていて、可愛い可愛いのアイドルではなく、アーティスト的な方向性は感じられました。
作曲・編曲は斉藤英夫ということで、後に森高千里の多くのヒット曲を出かける森高御用達作家が、実はデビュー時から関わっていたことが分かります。そういった意味では、少なくとも音楽的な面では、デビュー時からぶれていなかったのかもしれません。斉藤英夫の作曲した森高のヒット曲としては、『臭いものにはフタをしろ!』(1990年5月)、『勉強の歌』(1991年2月)、『コンサートの夜』(1992年2月)、『私がオバさんになっても』(1992年6月)、『渡良瀬橋』(1993年1月)、『私の夏』(1993年4月)、『風に吹かれて』(1993年10月)、『夏の日』(1994年5月)、『二人は恋人』(1995年2月)、『休みの午後』(1995年10月)などがあります。
さてセールス面での『NEW SEASON』ですが、オリコン最高23位、売上4.4万枚ということで、デビューとしては無難に立ち上がったというところでしょうか。この後まもなく、活動の主軸を歌手活動に据えるようになり、4枚目のシングルからは自身で作詞を手掛けるようになります。森高の場合は、自身による独特の作詞が後に大きな武器にはなっていくのですが、セールス面でブレイクするのは、7枚目のカバーシングル『17才』(1989年5月)です。このあたりになると、自分で自分をどうプロデュースしていくのかというところがはっきり見えてきて、以後は人気歌手としての不動の地位を固めていくことになりました。子育てで活動を離れていた時期もありましたが、今なお現役で活躍する姿は、若い時からまったく変わりません。島田紳助の横でたどたどしく立っていた姿を見ていた当時には、まったく想像できない未来でした。とにかく、他のとって代わることのできるアーティストを出現させなかった、独自の森高千里というアーティストを創り上げたということは、結果として大勝利ということになるでしょうね。
最後に、森高千里のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 この街
2 ファイト!!
3 勉強の歌
4 二人は恋人
5 NEW SEASON ★
6 So Blue
7 コンサートの夜
8 GET SMILE ★
9 私がオバさんになっても
10 渡良瀬橋
★=80年代発売
両A面扱い曲も含みます