80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.131
華麗なる賭け 田原俊彦
作詞 吉元由美
作曲 久保田利伸
編曲 新田一郎
発売 1985年8月
まだ無名の久保田利伸の作曲による、創り上げた独特の世界の中でスター・田原俊彦を演出するかっこいい一曲
さて、トシちゃんです。ヒット曲がいくらでもある田原俊彦の中から、一旦低迷期に差し掛かろうとしていた頃に発売された『華麗なる賭け』が好きで、今回とりあげてみることにしました。やはりこの曲の特筆すべきことは、作曲が久保田利伸であるということでしょう。久保田利伸作曲のトシちゃんの歌としては、よく『It’s BAD』(1985年11月)が紹介されることが多いのですが、実はその一曲の前のシングル『華麗なる賭け』こそが、最初の提供曲になるのですね。久保田臭が強く出ている『It’s BAD』に比べ、『華麗なる賭け』は久保田色があまり出ていないということがあるのでしょうか。『It’s BAD』がオリコン最高4位だったのに対し、『華麗なる賭け』はオリコンで1位を獲得し、売上枚数もわずかながら上ということなのに、そのわりに目立たない存在なのですよね。
そもそも田原俊彦の最大セールス曲はデビュー曲の『哀愁でいと』(1980年6月)の71.9万枚と、いきなり人気のピークを迎え、そのあともナンバー1ソングを連発します。ただセールス的には少しずつ低下していき、『華麗なる賭け』をリリースした1985年頃は、売上枚数は10万枚台にまで減ってきていました。ただその中で当然本人もファンも一緒に成長していっているわけで、曲調もそれに合わせて変化しているのは至極当然のこと。初期においては、青春ラブソング系の歌と、おちゃらけコミカルソングの2本を軸にシングルを組み立てていました。前者の代表曲は『哀愁でいと』、『ハッとして!Good』(1980年9月)、『悲しみ2ヤング』(1981年9月)、『グッドラックLOVE』(1981年10月)、『ラブ・シュプール』(1982年12月)あたり。後者の代表曲は『ブギ浮ぎI LOVE YOU』(1981年4月)、『キミに決定!』(1981年7月)、『NINJIN娘』(1982年8月)あたりでしょうか。
そこから1984年頃から、音楽的な幅と詩の世界の拡がりが感じられるようになります。『チャールストンにはまだ早い』(1984年2月)、『ラストシーンは腕の中で』(1984年1月)、前述の『It’s BAD』など、必ずしも売れ線を狙わずに、大人っぽい曲調にも挑戦したりする一方、『騎士道』(1984年5月)、『銀河の神話』(1985年2月)など、時代活劇だったり、SFだったり、映画の中に入り込んだような独特の空想的世界を創り上げたりと、試行錯誤しながら、新しいことに挑戦している感じがうかがえる時期でした。この『華麗なる賭け』も、独特の空想世界観の中に入り込んだような曲群のひとつといえるでしょう。同タイトルの映画を意識したようなクライム・ロマンス・ムービーの世界を創り上げることで、大人の男・スター田原俊彦をアピールしよう、そんな意図が感じられる作品です。
《唇にくわえた 妖しいダイヤモンド》《シャンパンに沈めては》《100万ドル傷ついてもいいさ》《今夜派手にふたり Hollywood life》《ため息の金の粉》等々、歌詞にはゴージャスなワードが並び、田原俊彦という存在が、手の届かないところ、まるで銀幕の中にだけに生きているような、そんな感覚にもなってくるわけです。この時期、かつてのようなセールスはなかったものの、『騎士道』然り、『銀河の神話』然り、田原俊彦は、君たちが暮らす世界とはまった別の場所で存在する、手の届かないスターなんだと、そんなスター性を演出する戦略がどこかにあったのかもしれません。その『華麗なる賭け』は久保田利伸の作った曲もかっこいいですしね。ただ残念なのは、田原俊彦のヒットメドレーといわれても、この曲がその中に選ばれることはまずないことです。おそらく、ある程度売れ線を狙ったシングルでもあったでしょうし、実際にオリコン1位も獲得しています。トシちゃんにはこんなかっこいい曲もあったんだよと、ぜひ知ってほしいという気持ちで、個人的にはいっぱいなのです。
さて、その後のトシちゃんですが、1986年から1987年にかけては、売上枚数がとうとう1桁台にまで落ちこみ、田原俊彦もここまでかとも思ったのですが、もう一山控えていたわけで、1988年4月発売の『抱きしめてTONIGHT』で復活しました。テレビドラマのヒットとの相乗効果もあり、売上枚数27.9万枚にまで戻すと、田原俊彦の代表曲のひとつとなり、さらに1989年4月発売『ごめんよ涙』で『華麗なる賭け』以来4年ぶりのオリコン1位を獲得したのです。この復活劇は、田原俊彦の長いキャリアの中で、単なるアイドル歌手だけでは終わらなかったということでも、大きな意味をもたらしたのではないでしょうか。
最後に、田原俊彦のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 グッドラックLOVE ★
2 ブギ浮ぎI LOVE YOU ★
3 華麗なる賭け ★
4 悲しみ2ヤング ★
5 騎士道 ★
6 ラブ・シュプール ★
7 KID ★
8 雨が叫んでる
9 哀愁でいと ★
10 恋=Do! ★
★=80年代発売