80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.121
君に、胸キュン。 YMO
作詞 松本隆
作曲 細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏
編曲 イエロー・マジック・オーケストラ
発売 1983年3月
新たにYMOのお茶目な一面を引き出した、彼ら特有の遊び心満載の化粧品CMソング
YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)は1979年10月発売のインストゥルメンタル曲『テクノポリス』がオリコン最高9位、売上29.3万枚のヒットとなり、続く『ライディーン』(1980年6月)もオリコン15位、売上22.5万枚の実績をあげ、一躍脚光を浴びることになります。彼らをきっかけに、日本の音楽界においてテクノポップに火が付くこととなり、まさに80年代初頭のコンピュータ・ミュージックのブームの象徴となっていくわけでした。私が中学生のときの学校の運動会の行進曲として、西城秀樹『俺たちの時代』などとともに、我が中学の吹奏楽部が演奏した曲が『ライディーン』であり、教育の場にもYMOは浸透していたわけです。そんな感じで、最先端のかっこいいコンピュータ・ミュージックを創り出すのがYMOというイメージは着々と固められていったわけです。
そんなかっこいい最先端の音楽を創り出してきたYMOが、新しいシングルとして出したのが『君に、胸キュン。』でしたから、当時はかなり意表を突かれた驚きがまず先立ちましたね。しかもカネボウのCMソングとは! YMOも大衆に迎合してきたのか、或いは歌を歌いたくなったのか、或いはみんなが知ってるヒット曲が欲しくなったのか、はたまたちょっとしたシャレなのか。とにかく、それまでの先端の無機質で冷たい感じの音楽から、ふりつけまでもふくめて、チャーミングなおじさんたち的な親近感を一気に植え付けることになったのです。テレビのランキング番組にも登場し、ファン層を大きく広めることになったことも間違いないでしょう。
歌詞ははっぴいえんど繋がりで当然のように松本隆。憧れている自分より上手の女性に対して、常に意識して視線を外せないような状態なのに、《愛してるって 簡単には言えないよ》、《柄にもなくプラトニック》と手も口も出せない内気ぶり。それがカネボウのCMの中で、連日流されるわけですから、インパクトとしてはかなりのものです。音楽は当然彼ら特有のピコピコ感満載なのですが、そこに歌詞がつくとこんな雰囲気にもなってしまうのかと、とにかく遊び心いっぱいといった作品として認知され、売上もオリコン最高2位まで上がり、34.7万枚と好調に推移しました。そしてこれにより、YMOのキャリアで最大のヒット曲となっただけでなく、3人のひとつの代名詞的な曲にもなったことで、その後の3人の持ついくつかの顔の中の一面として、今に至るまで好影響を与えることにもなったのではないでしょうか。
ただYMOにとって、歌謡曲のフィールドは長く留まるべき場所ではなかったのでしょう。『過激な淑女』(1983年7月)、『以心伝心』(1983年9月)とボーカル入りシングルをリリースしましたが、それもこの年限り。ある意味の実験、期間限定プロモーションが終わると、また3人それぞれが新しいことに挑戦していくことになるのです。YMOが日本の歌謡曲界に足跡を残したのは僅かに一年だけでしたが、それでも今に至るまでその印象が強く残り続け、一般的にYMOといえば『君に、胸キュン』と返って来るほどであることを考えれば、この「プロモーション」は大成功だったといえるでしょうね。