80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.114
ひとりぼっちは嫌い 高橋美枝
作詞 松本隆
作曲 松尾一彦
編曲 川村栄二
発売 1983年11月
ルックス良し、話題性あり、楽曲最高!なのになぜか売れなかった、埋もれてしまうのがもったいないアイドルデビュー曲の佳曲
ピンクレディー、山口百恵、岩崎宏美、桜田淳子、石野真子、柏原芳恵、小泉今日子、中森明菜、岡田有希子…有名歌手を多く輩出したオーディション番組「スター誕生」の決戦大会で合格し、1983年11月にこの『ひとりぼっちは嫌い』でデビューした高橋美枝。翌1984年からはNHKの人気アイドル番組「レッツゴーヤング」にもレギュラー出演するなど、話題性も多く、デビュー時から露出も結構あったのですが、キャリアの中でオリコンのシングルチャートに登場したのは、1984年10月発売の4枚目のシングル『Oh!多夢』(これもまた明るくて良い曲です)の98位のみという、残念ながらレコードが売れることがなく、歌手活動を引退していきました。
当時は、今のようにたくさんの女の子を集めて、玉石混交のグループを組んで、その中から人気のメンバーが何人か出てくるといったようなスタイルはなく、とにかくまずはレコードデビューさせて、事務所やレコード会社が売り込んでいくという時代。中には失礼ながら、このルックスでアイドルデビュー?とか、この歌唱力でお金をもらって歌を売るの?なんていう子もいないこともなかったのです。ただ高橋美枝についてはそんなことはなく、ちゃんとオーディションを通ってきているわけで、個人的には実はなかなかのタイプで、当時注目をしていたのです。ちょっとあか抜けなさは残るものの、それも初々しさに見えて可愛らしく、それでいて磨けば美しくなりそうな素材にも思えました。歌も特別上手というわけではなかったですが、下手というほどでもなく、アイドルとしては及第点だったでしょう。
楽曲の質もかなりのもので、トータルで5枚のシングルを出しているのですが、作家陣、特に作曲家のラインアップもなかなかのメンバーでした。デビュー曲から5人並べると、松尾一彦(オフコース)、南佳孝、小林亜星、小坂明子、後藤次利と、バラエティに富んではいますが、いろいろなフィールドから楽曲ごとに変えていて、厳選してシングル曲を選んでいたという印象です。その中でもデビュー曲『ひとりぼっちは嫌い』はいい曲でして、当時の私も一回聴いただけで気に入ってしまいました。
作曲は前述のように、オフコースのメンバーの松尾一彦が担当していましたが、松尾一彦は実はなかなかのメロディーメーカーで、女性アイドルをはじめとする他の歌手たちに素敵な曲を結構提供しています。柏原芳恵『夏模様』、勇直子『センターラインが終わるとき』『ナーバスにならないで』、佐野量子『夢からさめない』、稲垣潤一『雨のリグレット』など、隠れた佳曲が多いのですよね。『ひとりぼっちは嫌い』も、せつなさと明るさとを入り交ぜたような印象的なメロディーになっていて、高橋美枝の雰囲気にもぴったり。さらに作詞が松本隆ですから、変な曲になるわけがありません。出だしの《心がシュンとした日には 胡桃色した風の中 背中をキュッと弓なりに》とここのフレーズで、いきなり心を掴まれてしまいます。遠い街に行ってそれきりになってしまった好きだった相手を思い出し、その寂しい気持ちを歌った曲ですが、女の子のせつない気持ちが痛いほど伝わってきます。《涙がピッとにじむ日は ポストも口を閉じたまま》《ルックスがいまいちとかね 欠点を箇条書きして でも嘘ね 無理がみえみえ》《ハンカチギュッと絞るほど もう思い切り泣きたいの》と可愛らしく意地らしいフレーズのオンパレード。
こんな感じで詩も曲もとっても良いのです。テレビでの露出も結構あって、認知される機会もあったにも関わらず、オリコンの最高はなんと120位! あまりにも不憫な曲となってしまいました。その後も前述のように作家を変えてみたり、聖子ちゃんカット風からショートカットに変えてみたり(ショートはいまいちだったかも)と、いろいろ頑張ってみてはみたものの、結果は出ませんでした。歌手を引退したが後は、名前を変えて作詞家として活動していた時期もあるようですが、当時の他のたいして可愛くもない女の子たちがデビュー曲でオリコン20位、30位ぐらいにはいってきていたのと比べると、この結果はどうしてだったのか、謎なのですよね。