80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.109
曇り、のち晴れ 志村香
作詞 尾崎亜美
作曲 尾崎亜美
編曲 新川博
発売 1985年4月
菊池桃子に続けとばかりに、オーディションを勝ち抜いて映画主演デビューした、期待の新人の尾崎亜美作詞作曲によるデビュー曲
菊池桃子がヒロインの映画「パンツの穴」の続編「パンツの穴 花柄畑でインプット」で、約58,000人の応募からのオーディションを勝ち抜き、1985年4月に映画主演デビューした志村香。歌手としても菊池桃子に続けと、同じ1985年4月にリリースしたデビュー曲が『曇り、のち晴れ』です。デビュープロモーションはなかなか力が入っていて、アイドル誌のグラビアはもちろん、当時受験勉強をしながら聞いていたラジオからも、CMも含めてこの『曇り、のち晴れ』はよく流れてきたものです。本人の雰囲気からも、プロモーションの方向性からも、菊池桃子の路線を狙っていたのは明らかでしょう。
映画のタイトル「パンツの穴」は、当時十代男子に人気の雑誌「BOMB」の、思春期の男の子にはちょっと刺激的な1コーナーの名前からとったもの。そして「BOMB」の姉妹誌のアイドル誌の名前が「MOMOCO」で、イメージガールを菊池桃子が務めていたということで、雑誌、映画、歌をトータル的にプロモーションしていたのですが、いわば菊池桃子の二番煎じ的な存在が志村香だったのです。
ただ、志村香の決定的な弱点はその歌唱力です。菊池桃子もけっして上手な方ではないですが、それでも音を外しまくるほど下手でもなく、まあまあ、苦がなく聴ける程度の歌唱力はあったのですが、志村香の歌を聴いていると、とにかく苦しくなるほど…、失礼ではありますが、はっきり言って“ド”がつくほどの下手さだったのです。二番煎じの上にこれでは、菊池桃子を抜くどころか、足元にも及ばない形になるのは致し方ないところで、結果として芸能界では成功することができませんでした。それでも、大々的なプロモーションもあって、デビュー曲『曇り、のち晴れ』はオリコン最高22位、売上6.9万枚と、新人としてはまずまずの結果は残したのです。ただこれが人生最高の売上でして、計5枚のシングルを出したのですが、出すたびに売上が落ちていくという悲しい結果になったのです。
そんなデビュー曲の作詞&作曲が尾崎亜美と、これまた力の入り具合が伝わってくる選択なのです。尾崎亜美といえば、自らも『マイ・ピュア・レディ』をヒットさせましたが、それ以上に他のアーティストへの楽曲提供で多くの実績を残していて、特に女性アイドルへの提供はかなりものです。主な作品を挙げますと、松田聖子『天使のウインク』、岡田有希子『二人だけのセレモニー』『Summer Beach』、河合奈保子『微風のメロディー』、酒井法子『Love Letter』、観月ありさ『伝説の少女』『風の中で』、松本伊代『時に愛は』『恋のKNOW-HOW』、新田恵利『内緒で浪漫映画(ラヴ・ストーリー)』、堀ちえみ『素敵な休日』、岩崎良美『ごめんねDarling』、杏里『オリビアを聴きながら』など、(杏里は別として)女性アイドルだらけです。そんなアイドル御用達の作家にデビュー曲をお願いしたわけですから、ヒットは期待していたでしょう。でもやはり歌詞力がきつかった。多少下手でも可愛ければいいというのは、今に至るまでアイドルの歌ではよくあることではありますが、それでも彼女の場合はつらかったです。
他に個性を生かせる道があれば、或いはなんでもやるという強かさがあれば、そちらの道でということもあったのでしょうが、志村香はそれができなかったのでしょうね。可愛ければいい、では通じなかったのです。