80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.95
黄昏ダンシング 麻倉未稀
作詞 竜真知子
作曲 渡辺博也
編曲 渡辺博也
発売 1983年11月
洋楽カバー曲&大映ドラマ主題歌で名をはせた女性ボーカリストの最大のヒット曲は、淡々としたムーディ・ソング
麻倉未稀は1981年8月に『ミスティ・トワイライト』でデビュー、のちの麻倉未稀のヒット曲からするとやや抑えた感じのボーカルではありますが、CMに使われたこともあり、甘美でけだるい大人の楽曲として売上11.6万枚のヒット(オリコン最高は31位)となりました。また6枚目のシングル『What a feeling~フラッシュダンス』は大ヒット映画のテーマ曲をカバーし、堀ちえみ主演ドラマ「スチュワーデス物語」の主題歌となり、売上6.0万枚のスマッシュヒット(1983年11月)。以後、11枚目『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』(1984年11月)がドラマ「スクールウォーズ」の主題歌として18.1万枚、オリコン19位、13枚目『RUNAWAY』(1985年5月)がドラマ「乳兄弟」の主題歌として8.8万枚、オリコン23位と、海外ヒット曲のカバー+大映ドラマ主題歌の組み合わせが定番ヒットパターンとなっていきます。今でも時々テレビなどに呼ばれたときに歌うのは『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』や『What a feeling~フラッシュダンス』あたりですね。イメージとしては、ボリューム感のある声でカバー曲を歌ってヒットした歌手といったことが強いと思われます。
しかしながら、麻倉未稀最大のヒット曲は、こうしたカバー曲ではなく、純粋な和製ソングで、8枚目のシングルとしてリリースした『黄昏ダンシング』なのです。この『黄昏ダンシング』はTBSドラマ『さよならを教えて』(大映ドラマではないです)挿入歌としても起用され、オリコン最高12位、売上22.2万枚と、いわゆるキャリアハイの実績を残したのです。この曲は海外のカバー曲とは全く違う曲調で、“ダンシング”とタイトルで言いながらも、実はそれほどダンサブルな曲ではなく、わりと地味めな感じなのです。ですから、麻倉未稀の最大のヒット曲というのが、今となっては不思議な気がするのです。ですから、麻倉未稀がテレビで『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』を歌うことはあっても、『黄昏ダンシング』をテレビで歌う姿にはほとんどお目にかかれないのです。そういった意味では、なにか不憫な曲だと思ってしまったりもするのですが、考えてみればいい曲でもあまり売れないことなどいくらでもあるのですから、20万枚以上も売れたということは、やはり運を持った曲だったのかもしれません。個人的には、『黄昏ダンシング』の次にリリースした『ロマンスは熱いうちに』(1984年4月)などは、ポップでおしゃれでキャッチーで好きな曲なのですけれど、あまり売れませんでしたしね。
さて『黄昏ダンシング』ですが、作詞は竜真知子。杉村尚美『サンセット・メモリー』のときに触れていますが、70年代から活躍していた作詞家で、ヒット曲も多く出しています。一方、作曲・編曲は渡辺博也なのですが、どちらかというとドラマ音楽を中心に手掛けていた作家のようで、ヒット曲での作曲は、この『黄昏ダンシング』以外はほとんどないようです。麻倉未稀は、結構こうしたあまり有名でない作曲家を起用することがままあって、チャレンジ意欲が旺盛な人だったのでしょうね。
『黄昏ダンシング』の歌詞の半分は英詩であり、残り半分が日本語詞となっていますが、歌詞にあまり意味を持たせていないものになっています。別れの時を歌っていることまでは分かりますが、それ以上のストーリー性もなければ、情景も浮かばないし、感情も揺さぶらない。曲に合わせたかのように、ただただ淡々とした歌詞が綴られているだけなのです。しかも歌詞には“黄昏”という言葉だけでなく、それを類推させるような言葉さえ見当たらないのです。ただ考えてみれば「黄昏ダンシング」という言葉自体かなり比喩的な表現なのですよね。実際に黄昏の中で踊るなんて、夕暮れ時に野外のステージに立つダンサーを歌った曲ではないのですから、まともに考えればおかしな状況です。ですから、『黄昏ダンシング』は雰囲気なんでしょうね、雰囲気。“別れの時”を“黄昏”に例え、思い出をあれこれめぐらせているような状態を“ダンシング”とでも言っているのでしょう。挿入歌として使われたドラマを観ていないのでわかりませんが、ドラマの中での使われかたもよくて、場面にマッチしていたのでしょう。とにもかくにも麻倉未稀最大のヒット曲となったわけです。
その後麻倉未稀は音楽以外の面でも話題になることが増えていきます。ヌード写真集を出したり、或いは番組の企画で癌が発覚して手術をしたりと、波乱万丈な芸能人生を送っているようでもあります。しかしながら還暦を迎えながらも、芸能界で活動を続けているあたりは強かさを感じるのであります。