80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.88

 

南風-SOUTH WIND-  太田裕美

作詞 網倉一也

作曲 網倉一也

編曲 網倉一也

発売 19803

 

 

 

自身久しぶりかつ最後の10万枚ヒットシングルとなった、キリンオレンジのCMにぴったりはまった爽やか初夏ソング

 

太田裕美は197411月に『雨だれ』[オリコン14位・売上18.1万枚]でデビューし、70年代半ばを中心に、数多くのヒット曲を歌ってきました。4枚目のシングルで、今でも名曲として歌い継がれる『木綿のハンカチーフ』(197512)がオリコン最高2位、売上86.7万枚という大ヒットになると、5th『赤いハイヒール』(19766)6th『最後の一葉』(19769)7th『しあわせ未満』(19771)9th『九月の雨』(19779)と、オリコントップ10入りのヒットを立て続けに出して、人気歌手として活躍しました。しかし『九月の雨』の最高7位、35.6万枚を最後に、オリコントップ10から遠ざかり、売上も10万枚に満たない状況が続くようになっていくのです。

 

 どこか幸の薄そうな純朴少女の歌から、大人の女性の恋の歌へ、『九月の雨』あたりからその転換が図られていき、『失恋魔術師』(19783)『ドール』(19787)『振り向けばイエスタデイ』(197812)など、なかなかの佳曲揃いではありましたが、かつてのようなヒットには結びつかないでいました。そんな状態で1970年代が終わり、1980年代に突入した初めての春にリリースしたのが、この『南風-SOUTH WIND-。この曲は当時ポピュラーであった飲料「キリンオレンジ」のCM曲に起用されましたが、CM自体が数多く流されて、多くの人の耳に届くところとなったことで、久しぶりの10万枚超えの11.5万枚の実績を残したのです。最高順位は22(それでも前後が72位と76位でしたので、比べると突出しています)と、上位には届きませんでしたが、そのわりに売上が多かったということは、じわじわと長い期間売れていたということになりますね。

 

「キリンオレンジ」のCMは、日差しのまぶしい街の中で、一人の若い女性がスクーターに乗って走ったり、仲間たちと交流したりと、キリンオレンジを片手に、当時流行のトレーナー首まきファッションで休日を楽しんでいる様子が実に爽やかな映像になっています。そしてそこに流れていたのが太田裕美の『南風-SOUTH WIND-でして、これがまた実に爽やかな歌だったのです。爽やかな映像に爽やかな曲、そして爽やかな歌声と、3拍子揃ったCMは、個人的にもかなり強く印象に残っています。

 

歌詞の方は男視点で歌われていて、去年の夏に出会った小麦色の「オレンジ・ギャル」(キリンオレンジのCMでからね)に思いを馳せ、今年の夏もまた会いたいと、これから始まる夏にワクワクと希望を膨らませるような内容になっています。太田裕美の声でさらりと歌うと、これが実に爽やかでいいのですよね。《洗いざらしの半袖のシャツ》《目にとまったポスターに去年の夏》《君の素肌の誘惑》《天気予報 週末は晴れそうです》《このメロディー 去年の夏のヒットソング》《小麦色の肌が今甦る》…聴くだけで、外に飛び出していきたくなるようなワードの数々。

 

作詞、作曲はともに網倉一也で、他の代表的な提供曲には、郷ひろみ『マイレディー』(別名義にて詩・曲)HowManyいい顔』()、田原俊彦『悲しみ2ヤング』(詩・曲)『誘惑スレスレ』()、堀ちえみ『白いハンカチーフ』()などがあります。これらのラインアップはどれもギラギラ感を覚える曲なのですが、『南風-SOUTH WIND-』はまったく逆の爽やかな歌で、改めて網倉一也作詞・作曲と認識して、ちょっと意外な気もしました。

 

この後、太田裕美は『さらばシベリア鉄道』(198011)『君と歩いた青春』(19818)といった良曲にも恵まれますが、残念ながらヒットには結びつくには至りませんでした。ただ『木綿のハンカチーフ』という曲が大きな財産となって、世代を超えて歌い継がれるようになったのは素敵なことだと思います。そして時には、太田裕美という歌手には『木綿のハンカチーフ』以外にも、『南風-SOUTH WIND-』のような素敵な曲がたくさんあることが触れられると、より素晴らしいのにと思ったりもするわけです。