80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.71

 

太陽を抱きしめろ  セイントフォー

作詞 森雪之丞

作曲 加瀬邦彦

編曲 京田誠一

発売 19853

 

 

 

大々的に売り出された革新的な4人組ガールズ・アクション・グループの、トップ20入りを果たした唯一のシングル

 

 セイントフォー…、リアルタイムでこの時代を過ごした者にとって、歌は覚えていなくても、その斬新なスタイルはかなりインパクトのあるものでした。楽曲の中で披露するバック宙をはじめ、息を切らしながらその場でランニングするように歌う姿、メンバーの一人が眼鏡をかけているなど、とにかく他のアイドルとは差別化しようという戦略が全面に出たグループでした。そこには事務所の意図、狙いというものが見え隠れして、そのデビューに当たっては、とにかくさまざまな媒体を使っての大々的な宣伝プロモーションが繰り広げられました。所属レコード会社の副社長を橋幸夫が務めていたということもあって、売出しのためにテレビに橋幸夫を伴って出演していたのを今でも覚えています。

 

 おそらくライバルとして、同じ1984年にデビューした少女隊を念頭に置いていたのでしょう。少女隊もかなりお金をつぎ込んだプロモーションを行っていたので、そこには負けたくない、打ち負かしたいと、おそらく事務所の命運をかけたものだったと思われます。ただこのセイントフォー、素人目にも、本当に売れるのかと疑問を持って見ていた覚えはあります。確かに大規模なプロモーションでテレビや雑誌にも出ていましたし、1985年の各局の新人賞レースにも顔を出していました。ただ、アイドルとしてみたときに、正直なところ、可愛いという感じではなかったのです。当時はまだソロのアイドルが主流であった時代、一人では弱いからといってグループを組んだところで、人気が集められるかというと、必ずしもそうではなく、実際にデビュー曲『不思議Tokyoシンデレラ』(198411)はオリコン最高35位とかなり苦戦しました。当時としては激しい振り付けで一生懸命歌っている姿を見ても、可愛さを求められるアイドルにとっては、かえって逆効果だったかもしれません。かといってアッと言わせるほどのスキルの高いダンスというわけでもなく、踊りながら歌うので歌唱力を求めるのはコクというもの。

 

 それでも積極的なメディア出演により知名度も上がって、2ndシングルとしてリリースしたこの『太陽を抱きしめろ』は、オリコン最高15位まで上がり、売上も6.2万枚の実績を残したのでした。作詞はデビュー曲に引き続き森雪之丞、作曲も同じく続けての加瀬邦彦。加瀬邦彦はセイントフォーの音楽プロデューサーも務めていました。加瀬邦彦はグループサウンズのザ・ワイルドワンズ解散後も、作曲家として活躍をしていて、主なヒット曲には、沢田研二『追憶』『TOKIO』『恋は邪魔もの』、小柳ルミ子『冬の駅』があります。ただ『太陽を抱きしめろ』はそれらの作品群とはまったく雰囲気の違う、彼女たちが走っている格好で歌ったり、バック宙をしたりするに合うような、激しい曲ではありました。激しくアクションをしながら歌うのを見せたい、そのためにはどんな歌を歌うか、順番としてはそんな感じだったのでしょう。とにかく『太陽を抱きしめろ』はそこそこ売れました。ただ一方で、これが精いっぱいでもあったのです。

 

 その4か月後の19857月にリリースした3rdシングル『ハイッ!先生』はオリコン35位と逆戻り。なぜか作詞者も作曲者も変わってしまい、さらにその2か月後の9月にリリースした『ハートジャックWARはまたまた作詞、作曲者を変えた上に順位を下げて46位と急降下。売れなくなるといろいろと問題が発生するもので、このあと所属事務所とレコード会社の間でもめ事が勃発、新曲を出すこともままならない状態に陥ると、そのまま大人の事情でセイントフォーは解散せざるを得なくなってしまったのです。こんな顛末もあって、どうもセイントフォーには悲運、不憫というイメージが付きまとってしまうのです。

 

奇しくもこの年、素人の女の子を集めたようなおニャン子クラブがデビューし、芸能界に新しい風を吹き込むことになります。結局時代が求めていたのは、どこにでもいるような素人っぽいけれどちょっと可愛い女の子だったのです。コンセプトに従って初めからきちんと作られたアイドルは、結局求められていなかったのですね。セイントフォーも、そして少女隊も。

 

その後セイントフォーのメンバーたちは、デュオグループを組んだり、女優やグラビアなどで活躍したり紆余曲折を重ねていきます。そんな中2018年、メンバーの3人で再始動し、精力的に活動しているようです。全員揃っていないのは残念ですが、当時の不憫さを思うと、楽しんでやられているようで、なぜかほっと嬉しく思うのです。