80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.56
好きと言いなさい 本田美奈子
作詞 売野雅勇
作曲 筒美京平
編曲 船山基紀
発売 1985年7月
“マリリン”でブレイク前、2ndシングルとしてリリースした、本田美奈子としては貴重なぶりぶりのアイドルソング
デビュー時から歌唱力に定評のあった本田美奈子ですが、デビューしていきなり売れたわけではありません。デビュー曲は彼女の声量を生かした大人っぽいマイナー調の『殺意のバカンス』。新人に歌わせるにしては、結構難しい曲ですし、万人受けするような耳障りのいい曲でもなく、よくもこの歌でデビューさせたなというような作品でした。オリコン最高21位、売上7.3万枚という結果も、健闘したと言っていいのかもしれません。そしてその次の2枚目のシングルとして出したのが、この『好きと言いなさい』でした。これがまたデビュー曲とは真逆のぶりぶりのアイドルソングなのですが、やはりまずはアイドルとして売り出したいという事務所の戦略もあったのでしょう。
当時私はこの曲を、受験勉強中のラジオでよく耳にしました。1985年の夏、ちょうど夜勉強しているころに、習慣として聞いていたラジオで、本田美奈子が出演している番組があって、新曲が出ましたといって、毎回この『好きと言いなさい』を流していたのです。そして本田美奈子の相手役を務めていたのが、なんと秋元康だったのです。時期としてはおニャン子クラブの『セーラー服を脱がさないで』がリリースされたのとほぼ同時期ということで、まだまだ新進の作詞家兼放送作家というぐらいの認知度しかなく、現在の姿などは全く想像さえすることもない時代です。明るく楽しそうに、秋元康と話をする様子が印象的で、なんか売れてくれるといいなと、漠然と思っていた記憶があります。ラジオ番組の名前は忘れてしまったので調べてみると、どうやら「かぼちゃークラブ」という番組だったようです。
その番組で聴いた『好きと言いなさい』は、明るく、楽しく、可愛らしい、まさにストレートど真ん中のアイドルソングだったのですが、ラジオの本田美奈子を聴いていると、彼女のキャラクターに合った曲ではないかと、いつの間にかこの曲がお気に入りになってしまいました。作詞はデビュー曲と同じ売野雅勇、作曲もデビュー曲と同じ筒美京平なのですが、曲調は対照的。男の子に恋をしてしまいながらも、自分から本気になってしまうのが怖くて、どこかでセーブをかけてしまうような揺れる乙女心を、可愛らしく歌った歌詞になっています。《年上だと嘘ついて予防線を張るわ》《キスぐらいつき合うけれど》《この髪に触れた指先 上眼づかいはぐらかすわ》《いじめてあげる》と、恋愛に慣れた年上の女性のふりで余裕をかましているふりをして、実は《みんなアソビでしょ恋の始めは》《その後で泣くのは嫌よ 見かけよりも臆病だし》《本気になったら負けそうだから》と本気になるのが怖くて仕方ない。本音は《こんなに好きなのに 意地悪ね あなた》ということで、《あなたから先に 好きだと言いなさい》ということなんですね。王道ですね。
ですが、この曲もオリコン21位と、ジャンプアップとはいきませんでした。まだまだ知名度の広がりが弱かったようです。続く3枚目はハート型の企画っぽいシングル『青い週末』でしたが、こちらは限定シングル。タイプは前作とはちょっと違いますが、王道のアイドルソングでした。本田美奈子の曲で正攻法のアイドルソングといえるものはこの2曲のみ。それもセールス的にはいまいちでしたので、結果としてこの手のぶりぶりのアイドルソングについては、本田美奈子への需要はなかったということでしょうか。
その後セクシー路線に変えると、4枚目『Temptation(誘惑)』でオリコン10位と初めてトップ10入りすると、続く『1986年のマリリン』ではへそ出しスタイルが話題を呼び、大ブレイクを果たしたのです。その後は14枚目『あなたと、熱帯』(名義はMINAKO with WILD CATS)まで、11作連続でオリコントップ10入りを果たすなど、トップアイドルとして活躍しました。途中、ロック志向が強くなり、最終的にどっちへ向かうのか迷いも見られましたが、最終的に選んだのがミュージカルの世界。ミュージカル女優とした高い評価を得るようになったのですが、2005年、38歳の若さで亡くなってしまったのは、あまりにも惜しく残念な出来事でした。
最後に、本田美奈子のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 好きと言いなさい ★
2 Oneway Generation ★
3 HEART BREAK ★
4 Temptation(誘惑) ★
5 孤独なハリケーン ★
6 青い週末 ★
7 1986年のマリリン ★
8 悲しみSwing ★
9 the Cross 愛の十字架 ★
10 Help ★
★=80年代発売