80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.45
さよならの向う側 山口百恵
作詞 阿木燿子
作曲 宇崎竜童
編曲 萩田光雄
発売 1980年8月
1980年代最初の年に引退したスーパーアイドルの、有終の美を飾るお別れソング
1973年5月に『としごろ』で歌手デビューした山口百恵が引退したのが1980年10月。そのときの年齢は21歳。今の時代だと、結婚が前提としてもあまりに早すぎると、まずは引き留められるに違いないでしょう。その山口百恵の現役中にリリースした最後のシングルが、1980年8月の『さよならの向う側』です。実は引退したあとの11月にもう一枚『一恵』をリリースしていますが、やはり引退シングルということでは、その内容も含めて『さよならの向う側』というイメージになるでしょう。
こうした解散や引退時に、お別れソングとしてシングル曲をきちんとリリースすることは実は貴重なことで、なぜなら多くの歌手の場合、少しずつ売上や順位が落ちていき、いつの間にか発売の間隔があいて、とうとう新曲が出なくなるというパターンだからです。きちんとお別れソングをリリースするには、まだ人気があるうちに引退もしくは解散する必要があるわけで、その意味でも山口百恵は稀有な存在だといえると思うのです。お別れソングをきちんと出せたアイドルとしては、あとはキャンディーズ『微笑がえし』もそうですね。もっとも、近年のアイドルグループように、母体のメンバーが入ったり出たりしながらも継続している場合は、特定の人気メンバーが辞める時に、お別れソングを出すことはあります。母体自体が終わってしまうわけではないですが、お別れソングの意図をもってリリースするということですね。以前取り上げたおニャン子クラブ『じゃあね』とか、近年では乃木坂46『サヨナラの意味』あたりは、曲の内容的にも明確です。
さて『さよならの向う側』ですが、山口百恵の代表曲のひとつとして、今も歌い継がれる作品になっています。ただオリコン順位は4位、売上は37.9万枚と、実は特別に目立ったセールスを上げたわけではありません。1980年代初頭ぐらいまでは、アイドル歌手が当たり前のように1位を獲得するという時代ではまだなかったというのもありますが、それでもそれ以前にも1位を4曲獲得していた山口百恵なので、「ん?」という気もしないではありません。ただその1位の4曲を並べると『冬の色』『横須賀ストーリー』『パールカラーにゆれて』『夢先案内人』となり、必ずしも山口百恵の代表曲とは一致しないことがわかります。『横須賀ストーリー』あたりは代表曲の一つといえるかもしれませんが、『ひと夏の経験』『イミテイション・ゴールド』『秋桜』『プレイバックPart2』『いい日旅立ち』といったところは軒並み1位を逃しているというのは、やはり瞬間風速と後世に残るかというのは、別のことだということですね。
『さよならの向う側』の作詞・作曲は黄金コンビの阿木燿子&宇崎竜童夫妻が担当しています。1976年『横須賀ストーリー』を境に、それまでの千家和也&都倉俊一のコンビから、阿木&宇崎に変わり、大部分のシングルを担当してきましたから、引退シングルも当然いつものコンビで行こうといった感じでしょうか。この歌詞は、ストレートにファンに向けてのお別れの言葉として作られていて、そういう意味では潔いです。“あなた”という二人称を使っていて、特に一番の歌詞は《あなたの燃える手 あなたの口づけ あなたのぬくもり あなたのすべてを きっと私忘れません》と恋愛での別れに見立ててありますが、2番の歌詞では《あなたの呼びかけ あなたの喝采 あなたのやさしさ あなたのすべてを きっと私忘れません》と、ファンに向けて感謝を告げているような言葉になっているのです。《last song for you, last song for you…》と何度も繰り返し、これが最後の歌ですよと。それまでいろいろな仕掛けや斬新な表現であっと言わせてきた阿木燿子&宇崎竜童でしたが、最後は実に素直でそれでいて壮大さを感じる作品に仕上げて、山口百恵の引退を祝福したのです。
最後に、山口百恵のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 乙女座宮
2 プレイバックPart2
3 愛の嵐
4 夢先案内人
5 秋桜
6 冬の色
7 イミテイション・ゴールド
8 ひと夏の経験
9 いい日旅立ち
10 横須賀ストーリー
★=80年代発売