80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.41

 

ペガサスの朝  五十嵐浩晃

作詞 ちあき哲也

作曲 五十嵐浩晃 

編曲 鈴木茂

発売 198011

 

 

 

チョコレートのCMで火がついた、北海道出身のカーリーヘアが似合う青年の歌うさわやか青春ソング

 

 1970年代終盤から1980年代初頭にかけて、カーリーヘアのアーティストが続けて登場し、音楽チャートを賑わしていた時期があります。原田真二、クリスタルキング、また郷ひろみや西城秀樹もカーリーヘアに挑戦していた時期があります。五十嵐浩晃もまた、そんなカーリーヘアをしていたアーティストの一人です。北海道出身、第1CBSソニーSDオーディションに合格し、19805月、23歳、『愛は風まかせ』でデビューしました。この『愛は風まかせ』は、『ペガサスの朝』のヒットを受けてかどうか、少しあとになってスプライトのCMに使われていたので、テレビを見ていれば自然に耳に覚えていったような、聴き心地の良いボサノバ風の曲でした。ちなみにオリコン最高は45位と目立たなかったのですが、そのわりに6.2万枚と売上を残しています。

 

 さてそんな五十嵐浩晃が2枚目のシングルとしてリリースしたのが『ペガサスの朝』でした。この曲は明治チョコレートのCMソングとして起用されたことをきっかけに評判を呼び、大ヒットに結びついたのですが、当時のチョコレートのCMソングというものは、結構大きな影響力を持っていて、特にグリコのCMは、松崎しげる『愛のメモリー』、渡辺徹『約束』、松田聖子『風立ちぬ』、田原俊彦『悲しみ2ヤング』など、ヒット曲も多く生み出しています。『ぺガサスの朝』を明治チョコレートではありましたが、陽のあたる緑の公園で汗を流すロニー・バレンテなる外国のイケメン映画俳優(出演作は『エデンの園』ぐらいしか確認できませんでした)の映像と、『ペガサスの朝』の歌詞と曲がマッチして、CM自体が爽やかな印象を与える好感度の高い「作品」として仕上がっていたのです。それを見た或いは聴いた人々が、この爽やかで素敵な曲を歌っているのは誰だということで広がっていき、テレビにも五十嵐浩晃が呼ばれて出演するようになると、一気に爆発的なヒットになったのです。まさにこの曲を見つけ出した人の勝ち、というわけで、五十嵐浩晃は彗星のように現れて、オリコン週間最高3位、売上42.9万枚と、ヒット歌手の仲間入りを果たしたのでした。

 

 作曲は五十嵐浩晃自身がデビュー曲に引き続き担当、その後もほとんどのシングルで自身が作曲しています(すべてではないです)が、作詞はプロの作詞家に任せています。デビュー後しばらくはちあき哲也が担当していて、おそらく五十嵐浩晃の作るメロディと相性も良かったのでしょう。ちなみに他の作品としては、狩人『国道ささめ雪』、近藤真彦『ヨイショ!、少年隊『仮面舞踏会』、庄野真代『飛んでイスタンブール』、すぎもとまさと『吾亦紅』、矢沢永吉YES MY LOVEあたりが代表曲になります。

 

とにかくこの『ペガサスの朝』は爽やかです。《熱くもえる まるでかげろうさ 汗のしずくが とてもきれいだよ》で始まるのですが、前述のイケメン外国人が汗をぶるぶると振り払うシーンと、この歌詞が重なって来るのですから、爽やかさも二倍になるわけです。さらに《朝も生まれたて》《光る空の下》《ぼくら生きている》といった言葉が、未来が光り輝く青春のキラキラ感を表現しているようで、曲との相性もばっちりなのです。

 

ただ一方でこの歌詞、歌い手である“僕と、聴かせている対象の“あなたとの関係性がものすごく曖昧で、どうにもとれるようになっています。《あなたとは恋といえない 友達でいたい》《あなたとは風に吹かれて 友達でいたい》といいながらも、《かけておいで僕の日記から 愛の素顔を ひとつ覚えたね》《そして逢いたくて》と愛しい気持ちを匂わせているところもあって、とりようによってはずるい感じがします。でもこの曖昧さがまたあれこれ考えていいのでしょうね。好きだ好きだと熱く語るでもなく、君のことは好きにはなれないと突き放すでもなく、中途半端な距離感で本当はどうなのかしらともんもんと考えるのもまた青春らしいのかなと思ったりもするわけで…。

 

とにもかくにもいろいろな相乗効果もあって、『ペガサスの朝』は大ヒットするのですが、残念ながら五十嵐浩晃の一般的な評価は「一発屋」のひとりというようになってしまうのです。3枚目のシングル『ディープ・パープル』は一転して、悲しく沈んだ曲調の男女の別れの歌でしたが、売上は9.9万枚と大健闘ながら、順位的には最高23位と地味な展開となり、それ以降はチャートの上位を賑わすような曲は出せませんでした。ただ音楽活動はその後も地道に続けていて、その点では嬉しい限りではあります。そしてその上で、やはりこの『ペガサスの朝』は名刺代わりの役目を果たしているでしょうし、ひとつでもヒット曲を持っているということは、大きな強みであることには違いないでしょう。『ペガサスの朝』はカラオケで歌っても気持ち良いですし、私にとっても今でも好きな曲です。