80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.37
PARADISE IN SUMMER 清水宏次朗
作詞 秋谷銀四郎
作曲 織田哲郎
編曲 渡辺健
発売 1988年6月
映画ビー・バップシリーズで人気が沸騰した実は実力派シンガーの、前年に続けてリリースした全開サマーソング
1980年代半ば、映画の『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズで仲村トオルとのコンビで人気が沸騰した清水宏次朗。そもそもは竹の子族出身の竹宏治(安直な芸名ですが)として1981年にアイドル歌手デビューしていたのですが、その後本名に変えて清水宏次朗として活躍していました。『ビー・パップ・ハイスクール』の映画は1985年から1988年にかけて5作製作されていて、ちょうどその最終の頃に発売されたのが、この『PARADISE IN SUMMER』です。歌手清水宏次朗として、セールスが最も活発だったのもこの1988年であり、まさに清水宏次朗の人気絶頂期に発売された夏ソングであります。
竹宏冶では売上が振るわず、清水宏次朗になって最初のシングル『ビリー・ジョエルは似合わない』(1984年4月発売)はオリコン89位。実際にセールス面で実績が上がってきたのが、1987年からで、同年7月に発売したサマーソング『Summer Of 1985』がオリコン最高15位まで上昇し、キャリア最高の9.6万枚を売り上げました。この曲は本人が登場するロート製薬のCMソングにも使われ、夏の爽やかな映像とバックに流れるこの歌がマッチし、売上アップにも大きく寄与したことでしょう。続く『Love Balladeは歌えない』の15位(これもかっこいい歌ですよ)を経て、1988年2月発売の『TOUCH DOWN』(バラードのこれまたいい曲)で初めてオリコントップ10入り(10位)を果たすのです。『TOUCH DOWN』と同時発売の『ジグソー・パズルのDaydream』もありますが、これは当時通常のシングルとは別物に考えられていた12インチシングルなので、除くとすると、まさに昇り調子の最高潮にいた状況だったのです。
そこで、前年好成績を上げたサマーソングで勝負を賭けようと発売したのが『PARADISE IN SUMMER』だったのです。この『PARADISE IN SUMMER』ですが、実に夏に相応しい楽曲に仕上がっていて、しかもこれまたロート製薬の目薬のCMソングに起用されています。完全に売れ線を意識したものといっていいでしょう。作曲は『Summer Of 1985』と同じ織田哲郎。織田哲郎とサマーソングと夏CMは実に相性が良くて、TUBEの初期の曲とキリンの組み合わせ、1990年代に入ってからのZARD、DEEN、FIELD OF VIEW、そして織田哲郎自身の曲となどとポカリスエットとの組み合わせ等々、夏の映像に重なるちょっと哀愁感のあるサマーソングを作らせたら1、2を争うのではないでしょうか。
この曲は、出だしから疾走感抜群。《Non Stopで飛ばしてきた カブリオレで渚の十字路 このカーブ 突き抜ければ》(余談ですが、当時は“ガ”ブリオレと歌っています、ま、アボ“カ”ドをアボ“ガ”ドと発声するようなものですね)で、いきなり夏の海に連れて行ってくれます。そのあとは、もう夏全開!《灼けつく日ざし 待ち切れなくてもう おまえはオイルのキャップ ひねった》《ストライプのシャツの衿に 南風がサンバ踊るよ》《ビーチハウスから飛び出してきてJump 水着のおまえ やっぱりNo.1》と、彼女との海で水着デート、想像するだけでワクワクしてくるじゃないですか。作詞をしたのは秋谷銀四郎。『Summer Of 1985』も秋谷銀四郎でしたので、こちらの相性もばっちりですね。ちなみに秋谷銀四郎の他のアーティストへ提供した中で、セールスを残した作品は、光GENJI『風の中の少年』、織田裕二『Happy Birthday』ぐらいでしょうか。とにかく『PARADISE IN SUMMER』は、夏のドライブのBGMとしてはピッタリの曲なのです。
冒頭で、仲村トオルと人気を二分していたと書きましたが、同じツッパリ役を演じた仲村トオルと清水宏次朗の決定的な違いは、歌唱力です。仲村トオルも人気に乗じてシングルをリリースしましたし、そこそこセールスもありました。ただその歌は、お世辞にも上手と言えるものではなかったです。対して清水宏次朗の歌唱力はかなりのものでした。残念ながら、ツッパリや元竹の子族のイメージが強すぎて、シンガーとしての清水宏次朗の実力にスポットが当たることはあまりなかったのですが、本来はシンガーとしてもっと評価されるべき人だと思います。この曲に限らず、清水宏次朗の歌はまず音程がピタリときまっていてぶれません。それでもって、ややハスキーがかった声での表現力にも優れていて、切ないバラード『TOUCH DOWN』も、刻むようなリズムがカッコいい『Love Balladeは歌えない』も、そして解放感あふれる『PARADISE IN SUMMER』も、どの曲もその曲に合った表現で歌い分けられています。イメージで損しているのが、ちょっと気の毒な気もします。
『PARADISE IN SUMMER』は結果として、オリコン週間10位と、2曲続けてのトップ10入りを果たしました。ただその後は、少しずつセールスは低下していきます。自身で作曲を手掛けるなど、音楽には積極的に取り組んでいましたが、活動の中心は音楽から、Vシネマへと移っていきました。ただ現在は体調が思わしくないという報道もあるなど、芸能活動も休止しているようです。コンスタントに活躍している仲村トオルとどうしても比べてしまうのですが、再びその元気な姿を、何かの作品で見せてほしいと願わずにはいられません。