図書館で見つけた本をめくって、そこに貼られていた貸出表に書いてあった謎の言葉。何処かの国の呪文のようにも思えた。

中込少年はなんとなくつぶやいてみた。
すると斜め前に座っていた少女がそれに呼応するようにつぶやいた。
「ハクア ド ロット ヘルミニウム…カルーア」

予想外の反応に一瞬驚いたが、頭の中は驚くほど冷静だった。カルーア?なんのことだろう。酒か…?
そんなことよりも、この言葉に続きがあることが気になった。
ふと顔をあげると、目の前にあったはずの本がパタパタと音をたてめくれていく。

すると左後ろに座っていた少女が叫んだ。
「ハクア ド ロット ヘルミニウム サーモン!」
頭の中は相変わらず冷静さをたもっていた。

サーモン?鮭か?
すると続けざまに右後ろの少女が、いや、少女ではなかった。
図書館に入った時には確かに居た少女が、いつのまにやら居なくなっている。
代わりのように座っていたのは、変な仮面を着けたおっさんだった。

「クッ、こんなときにゲルググさえあれば…」

おっさんはなにやらぶつぶつと独り言を言っている。中込少年はそこであることに気付いてしまった。


目の前でバラバラと音をたてめくれていた本に、カルーアのボトル、鮭、ゲルググが描かれていることに。

すると突然激しい動悸に襲われた。
『バックンチョ、バックンチョ』
本へと伸ばす手が震える。
触れた指先は、先まで行き届いた神経が敏感で、さっきまであれほど冷静だった脳みそを刺激し、軽い目眩さえ起こそうとしていた。
しかし手は止まらない。
次のページをめくると真っ白である。
その次も、その次も。
ずっとずっと真っ白だった。

奥付、裏表紙まで白いことを確認し、変な仮面を付けたおっさんに視線を戻す。

おっさんはニヤリと笑い、

「君、いま東京タワーのことを考えたろう」

と言った。意味がわからないので無視していると、

「ゲルググの次のページを見てみなさい」

言われるがまま確かめるとそこには確かに東京タワーが描かれていた。それは描かれているというよりも、写真に近いほど精緻なものであった。そして展望台に、微かにではあるがおっさんと同じ仮面をつけたが描かれていることに気づく。そして…その仮面の男が自分であることを確信した。
一部始終を見届けると仮面のおっさんは語りだした。

「勝手な話ですまないが…私は四度、君の身体を借りている。新たな君の世界、『白紙の本ーフロンティアー』を築くために、最低限のページを埋めさせてもらうためだ。
ひとまずこれで衣食住は揃っているハズだ。これからのページは君自身の手で埋めるんだ。
さあ中込少年。君は何を望む?」

中込少年「俺はー