コルネーリア・フンケ
浅見昇吾訳
魔法の声/魔法の文字

WAVE出版より発刊されたドイツの童話。作者コルネーリア・フンケは、児童書のイラストレーターとして活動中に執筆も始めた。


2006年12月に日本ではじめて発行され、翌年の1月には第二版に漕ぎ着けている。
小学校の六年生の頃、よく本を読む子だった僕に、叔母が買い与えてくれた本だった。
叔母は少し遠いところにすんでいて、盆暮れや連休になると、僕たち兄弟に(僕には弟が三人いるのだが)よく本を買ってくれていた。叔母にこの本より前にもらったものは、黒猫サンゴロウの冒険と言うシリーズで、まだ小学校低学年の弟たちがいた僕に、弟たちと読みなさい、ともらったのだった。読みやすく分かりやすいものだったが、僕はあっという間に読み終わってしまって物足りなかった。それを見かねた叔母が、この本を選んでくれた。

2008年に、アメリカ・イギリス・ドイツの合作で「インクハート/魔法の声」と言うタイトルで映画化されており、主人公のメギーをイライザ・ベネットが、その父モルティマをブレンダン・フレイザーが演じている。日本で劇場公開はされておらず、2019年にDVDが発売されている。
インクハートとは、この本に登場する本のタイトルで、メギーやモルティマの運命を大きく変える本だ。インクハートというたった一冊の本のせいで、メギーは、数奇な運命を歩むことになる。

以下、ネタバレあり

主人公メギーは、本が大好きな12歳の少女だった。父のモルティマも、同じように本を愛し、母がいない二人きりの家には、至るところに本が積み上げられている。どこに行くにも本を携え、寝るときには本を枕の下にいれて眠るほどだった。
本を読むことが大好き。本を読むことはモルティマから教わった。でもメギーは、モルティマに本を読み聞かせてもらったことは一度もなかった。
雨の降る夜、メギーとモルティマのもとへ、ほこり指という青年が尋ねてくる。そこからすべてが変わってしまった。

何かから逃げるように家を飛び出し、母の叔母エリノア(この人も本が大好きで、大きなお屋敷はたくさんの本で溢れている)のもとへ向かった。メギー、モルティマ、そして、ほこり指もそのメンバーに加わった。
カプリコーンという恐ろしい人が、モルティマが持っているものを欲しがっている。どんなことをしてでも奪い取るだろう。ほこり指は、不審がるメギーに、そう話して聞かせた。その、モルティマが持っているもの、というのが、フェノグリオという男のかいた「インクハート」という本だった。インクハートの内容は多くは語られないが、後にフェノグリオの口から「インクのように黒い心を持った男の話だ」と語られる。正直僕も気になるので読んでみたい。

父、モルティマは、本を朗読すると、現世にあるものと引き換えに、本の中のものを喚び出せる不思議な力を持っていた。ほこり指、そして、カプリコーンは、モルティマが、その自分の声の力を知らない頃に、インクハートを読んでいたときに喚び出してしまった物語の登場人物たちだった。ほこり指達が現れたときに、それと引き換えに、メギーの母テレサは、本の中に消えてしまった。
それ以来、モルティマは本を読み聞かせたり、朗読したりすることをやめてしまったのだった。

インクハートという本を巡り、恐ろしい事件が何度も起きる。
モルティマは自分の妻を取り戻すためにインクハートを手元においていた。ほこり指は、元の世界に帰るために、そしてカプリコーンは、元の世界へ帰らないようにするためと、腹心の部下を喚び起こすために、インクハートを欲していた。

モルティマが持っていたインクハートが奪われたあと、メギーとモルティマは、他のインクハートを探すため、作者のフェノグリオのもとを訪れる。苦労の甲斐もなく、そこでも、インクハートは全て盗まれ、一冊も残っていなかった。

恐ろしい経験を重ねていくうち、メギーの声も、モルティマとおなじ魔法の力を目覚めさせる...。

魔法の声、魔法の文字は、せっかくなので続けて読んでほしい。独特の世界観に一気に引き込まれる。
物語の各章の最初には、多くの実在する書籍から引用された文章がある。一度読み終えたら、今度はその引用された本を探しながら読み直すのも楽しいかもしれない。

僕は映画のDVDをさがそうかな。