- 桂 米朝
- 「上方落語 桂米朝コレクション〈1〉四季折々 (ちくま文庫)
」
上方も何も、ほとんど落語を聞いたことはないのだけれど、ちょうど北村さんの「円紫さんと私」シリーズを読んでいたこともあり、図書館で目について借りてきた本です。私の落語体験と言えば、タクシーの中で運転手さんが聞いているもの、というくらいのお寒いものなんですが…。当時、実家が終バスが終わるとタクシーで帰るしかない場所にあり、深夜料金を払って帰ったものです。暗い夜道を行く中、くつくつと笑いながら、落語を聞いている運転手さんが印象的でした。
さて、こちらの桂米朝コレクション。「どもならん」くて、「かなわんなぁ、これ」な出来事が、笑いに転ずる様が楽しかったです。すべて理詰めでいくわけではないけれど、時代に合わない部分も何とか考えながらなさっているわけですね。後は、こうやるといやな後味が出てしまう(だって、落語の登場人物と言ったら、それはお調子者なわけですし)、というところを、ほのぼのと、からりと明るい笑いに持っていく。それが演者の技なのでしょうね。
最初に米朝さんの、その噺に対する考えや解説が入り、その後にお噺が収録されているスタイルです。「千両みかん」における、以下の文がまさに、落語というものを表しているのかと。
時代が変わりすぎてしまいましたが、なればこそ、古い時代の物語をしゃべることによって、その夢の世界へ見事にお客様を御案内し得た時の、われわれの喜びもお客様の興趣も、一段とまさるのではないかと考えます。
そうやって、今はもうない夢の世界へ案内してくれるのが、落語なのですね。
けんげしゃ茶屋
正月丁稚
池田の猪買い
貧乏花見
百年目
愛宕山
千両みかん
蛇含草
まめだ
かけとり
風の神送り
解説 小松左京
「百年目」は、「円紫さんと私」シリーズの若き日の円紫さんが、師匠のやるこの噺を聞いて、落語をやろう、と決めた噺。というわけで、当然、「空飛ぶ馬 」にもこの噺の解説は出てくるわけですが、やっぱり字数の関係もあるし、この時は噺を全部わかったわけではなかったので、このお噺をきちんと読めたのも嬉しかったな。
「貧乏花見」は、大正期に東京へ移されて、「長屋の花見」という題のお馴染みの落語になったのだとか。疎い私でも、タイトルくらいは聞いたことがあったかな。貧乏長屋のパワー溢れる人々が良かったです。お茶を持ち寄って樽に入れて「お茶け」と称したり、そんなものをこの人たちが持っているはずもない、持ち寄った晩菜の大層な名前も楽しい。
これ、今amazonを見たら、全8巻のシリーズなのだとか。2は「奇想天外」で、3は「愛憎模様」、4は「商売繁盛」、5は「怪異霊験」で、6は「事件発生」。7は「芸道百般」、8は「美味礼讃」。むー、テーマもみんな気になるではないですか。わが図書館に、全部置いてあるのならば、ぼちぼちと読んでいきたいシリーズでありまする。
*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。