「酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記」/恩田陸さんの紀行文 | 旧・日常&読んだ本log

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2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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恩田 陸
酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記  

旅行とはすべからく、楽しいもの?
直前には、ドキドキわくわくして仕方のないもの?
ましてや、その地は恩田さんが憧れ続けたという、イギリス・アイルランドだというのに。

「酩酊混乱紀行」とあるとおり、紀行文にも関わらず、その始めの文章は「なぜか新国立劇場にいること」と題され、ビールを飲みながら書かれた、旅行前の観劇の話なのである。そう、恩田さんの「酩酊」と「混乱」は、冒頭から既に始まっていたのだ・・・。

憧れのイギリス、アイルランドに渡るためには、そう、「あれ」に乗らなくてはならない! 恩田さんが恐怖してやまないその乗り物といえば、そう、「飛行機」なのだ!

飛行機と小説家の関係のこと」でつらつらと語られるのは、飛行機嫌いの小説家や監督のこと。スティーヴン・キングしかり、アーサー・C・クラークしかり、レイ・ブラッドベリしかり、スタンリー・キューブリックしかり、・・・。ただでさえ、普段から半ば妄想のように荒唐無稽なプロットを考えている連中が、飛行機を怖がるのはむべなるかな、と恩田さんは考える。勿論、これは恩田さんにも当てはまるわけだけれど・・・。「あれ」に乗る前には、「あれ」に対する恐怖に煩悶し、憧れの地を踏んでも、「あれ」のことが頭にちらつき、帰国が近付けば、再度訪れる「あれ」との遭遇に頭を悩ます・・・。混乱の様すらさえ面白いとは、さすが小説家とも思うのだけれど、じっとりと脂汗が滲むような様が読んでいるこちらにもひしひしと伝わってくる・・・。

というわけで、これは恩田さんの酩酊(ほんとに良く飲んでおられるんだ、これが! ビール、ビール、ビール!という感じ)と混乱、時に妄想が楽しい紀行文。随所に小説や劇、映画についての感想がさらりと忍び込むのも嬉しいところ。飛行機に乗る直前の、成田エクスプレスの中では、「のだめカンタービレ」の千秋真一に感情移入していたりもする。勿論、恩田さんも書かれているとおり、飛行機嫌いの千秋さまに助けてもらう事は出来ないんだけど。きっと、恩田さんの中では、日常とその他の物語の区別がないのだろうな。ま、今回の場合、恐怖に駆られて、思考が特に飛んでいるのかもしれませんが・・・。

そして、興味深かったのが、恩田さんが旅先でよくやるというゲームの事。恩田さんは気に入った場所、雰囲気のある場所に出会ったとき、その場所を舞台にして何が起こるのか、自分やその場所に聞いてみるのだそうだ。ここで何が起きたら驚くか、何が出てきたらお話になるのか。タラの丘で恩田さんの頭に浮かんできたイメージも、いつか小説として紡がれ、形をなすのだろう。

ところで、この明らかに「地球の歩き方」シリーズを模したこの装丁。最終章の「そして、一年後のこと」では、恩田さんはスペイン北部にあるオビエド空港で、冷や汗を流し、立ち尽くしているわけですが、また、こういうの書いてくれないものかな。恩田陸、「酩酊混乱紀行」シリーズ。楽しそうなんだけど。ま、でも、恩田さんの寿命が何だか縮みそうで、それはあんまり嬉しくないわけですが。