スティーヴン ミルハウザー, 柴田 元幸
「バーナム博物館
」
なかなか不思議で雰囲気のある表紙なんだけれど、出ないようです、残念。
読み終わってもやもやと考えていた事を、「訳者あとがき」にてずばり書かれておりました。
それはこの本のテーマが、「過剰な想像力を抱え込むことの甘美な呪い」であるということ。
想像力は現実を超えて、軽やかに、軽やかに飛翔してゆく・・・。
目次
シンバッド第八の航海
ロバート・ヘレンディーンの発明
アリスは、落ちながら
青いカーテンの向こうで
探偵ゲーム
セピア色の絵葉書
バーナム博物館
クラシック・コミックス#1
雨
幻影師、アイゼンハイム
訳者ノート
訳者あとがき
七つの航海で終わるはずの、シンバッド(シンドバッド)の第八番目の航海(シンバッド第八の航海)、全くの無から自らの想像力によってのみ、幻の女性を創り出すロバート・へレンディーン(ロバート・ヘレンディーンの発明)、ウサギを追いかけてひたすら落ち続けるアリス(アリスは、落ちながら)、上映が終了した映画館の中で、スクリーンの中に入ってしまう子供(青いカーテンの向こうで)、「探偵ゲーム」のプレイヤーたちとゲーム盤の中の世界(探偵ゲーム)、セピア色の絵葉書の中に、私が見たもの(セピア色の絵葉書)、空飛ぶ絨毯、人魚など、あらゆる不思議なものが陳列されたバーナム博物館(バーナム博物館)、コミックスの中のコマの世界(クラシック・コミックス#1)、全てが雨に溶けていく(雨)、世紀の奇術師、アイゼンハイム氏の生涯(幻影師、アイゼンハイム)。
雰囲気が好きなのは、子供の頃の、映画館への恐れが混じった憧れや、映画の映し出されるスクリーンの向こうを描いた「青いカーテンの向こうで」(スクリーンの向こうに、映画館のどこか奥深くに、映画の登場人物たちが隠れていないとどうして言える?)。
面白かったのは、「探偵ゲーム」、「バーナム博物館」、「幻影師、アイゼンハイム」。
「探偵ゲーム」は、アメリカで最もポピュラーなボード・ゲームの一つ、「クルー」が元になっているそう。ゲーム盤中央の黒い封筒に隠された、犯人、犯行現場、凶器のカードを当てるのが最終目的。デイヴィッドの誕生日に集まった、ジェイコブ、マリアン、デイヴィッドのロス家の三兄弟と、招かれざる客、ジェイコブのガールフレンドのスーザンの四人で行う、「探偵ゲーム」。現実の緊迫した彼らの様と、ゲーム盤中のコマたちの生が絡み合う。
「幻影師、アイゼンハイム」。並外れた技量を持つ、奇術師のアイゼンハイム氏は、とうとう一般の奇術の枠をも超えて、幻術の枠へと進んだようである・・・。アイゼンハイム氏が夜毎の舞台で登場させるのは、幻の少年や少女。言葉も発するし、会話も出来る、しかしながら現実の人間が触れることも出来ない彼ら。さて、どこからどこまでが幻影だったのか・・・?
「クラシック・コミックス#1」などは、ちょっと読むのが辛かったけれど、幻想的で奇妙な味に満ちた物語たち。
← 新書も。「白水Uブックス 海外小説の誘惑」だって。
こちらのシリーズも気になります。