「三つの都の物語」/あるヴェネツィアの貴族の生き方 | 旧・日常&読んだ本log

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2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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塩野七生「三つの都の物語」

緋色のヴェネツィア
銀色のフィレンチェ
黄金のローマ

「読者に」とされたあとがきを読むと、この三部作の真の主人公は、人間ではなく都市(また、それぞれの初出タイトルは、順に「聖マルコ殺人事件」、「メディチ家殺人事件」「法王庁殺人事件」とのこと)。

トルコ帝国の首都となったコンスタンティノープルと関係を持たざるを得なかった、十六世紀初頭のヴェネツィア、君主国に変わりつつあった同時期のフィレンツェ、最後のルネサンス法王といわれたファルネーゼ法王下のローマ・・・。最盛期を過ぎて、優雅に衰えつつある時期の三つの都市が題材とされる。

この本において特筆すべき事は、塩野氏がこの三部作で、初めて主人公二人を創作するという手法を選んだこと(とはいえ、私はこの本が塩野氏初体験なのですが)になるのだと思う。男女二人の主人公にこの三都市を旅させ、また生活させることで、ルネサンス時代を代表するこの三都市を描いたのだという。主人公二人以外は全て史実によるもので、この三部作は「史実のパッチワーク」であり、常に念頭から離れない「事実は再現できなくても、事実であってもおかしくないことは再現できる」ということの実験例とも言えるのだそう。

ノンフィクション的色彩が強い塩野氏の作品の中では、かなり自由に描いておられるとのことだけれど、例えば歴史小説の系統でいっても、三作品を読んだ佐藤賢一氏(イタリアとフランスという、取り上げておられる国の差もあるけれど)と比較しても、エンターテインメント色は弱く、また読む側にもある程度の知識が必要とされるように思う。

塩野氏が創作した、ヴェネツィア貴族マルコ・ダンドロ、悲しい生涯を秘めた高級遊女、オリンピア。二人とも大変に魅力的であるし、ヴェネツィア貴族の生き方、当時の都市、当時の慣習、政治哲学なども色々興味深いのだけれど、私が読むにはまだまだ自分でこなすことが出来ず、硬い物を無理やり咀嚼しているような感じだった。

「緋色のヴェネツィア」は、ヴェネツィアの元首アンドレア・グリッティの私生児であり、トルコの宰相イブラヒムに深く食い込んだアルヴィーゼ・グリッティを中心に描かれる。そう、「シナン 」ではトルコ側から描かれた史実が、今度はヴェネツィアの側から描かれるというわけ。というわけで、これに関しては、何とかついていくことが出来たように思う。
ただし、ヴェネツィアの貴族、政治に関しては、初めて聞くことばかり。良く出来た制度だなぁ、と感心致しました。外交なくしては立ち行かない、ヴェネツィアという国の強かさ、バランス感覚、情報の重要性が興味深い。
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さらに「読者へ」によると、いつか余裕ができたら、この三部作の続編を書いてみようか、とのこと。マルコ・ダンドロはまだ四十代に入ったばかり。今後は大使にでもして、十六世紀半ばのヨーロッパ諸国をまわらせてみましょうか」とのことであります。私もこの続編が読めたらなぁ、と思う。それまでに、この文章を噛み砕く力、周辺の知識を養っておこうかと思います・・・。

塩野 七生
三つの都の物語
 ← 三作をばらした文庫もあるようです
 いずれも、朝日文芸文庫より
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。