その日、私は鹿児島市内のとあるビジネスホテルでひとり朝食を楽しんでいた。
繁華街からも近く利便性の良いホテルだ。
週末ということも手伝ってか、いつもは人がまばらな朝食会場も結構な賑わいを見せていた。
「おおっ?お~お~!!」
後ろから声が聞こえたと思った途端、いきなり肩甲骨あたりを小パンチされた。
…ええっ?
私は驚き反射的に振り返った。
見たこともない若い男性だった。
30代前半くらいだろうか、その男性は私以上に驚いていた。
「あ…すいません、友達と間違えて…」
「あ…ああ…大丈夫ですよ…」
男性は申し訳なさげに軽く一礼した後、違うテーブルの方へそそくさと歩いていった。
私は後頭部をハゲ散らかしたまんま、作業服姿でスポニチを広げている。
若きお友達が知れば遺憾砲だろうな。
そんなことを考えてたらメシが急に不味くなった。
ミノーを中心にシンペン、トップ、バイブ、ワームにスピンテール…。
とにかく沢山使ってみよう。
そうすれば何かしら見えてくるはず、自分自身の成長にも繋がるはず。
そんな漠然とした思惑もあった。
数にして40~50にも及ぶ大量のルアーを毎回現場に持ち込んだ。
そして一度の釣行でほぼ全弾投げ切った。
【明暗に同じルアーを何度も通すとスレる】
そんな噂を耳にして以来「原則1ルアー1投のみ」と定め、4つに分けた独自のローテーションを余すことなくフル稼働させた。
ライジャケはいつも泥のように重かった。
実際に泥を抱えたことはないのだが、多分そんな感じだと思う。
ルアーをパンパンに詰め込んだメイホウのケースを右ポッケに2個、左ポッケに2個。
背中ポッケにはお気に入りのルアー予備群。
ろくに身動きすら敵わず、すっかり嵩張って横を向くのすらツラい。
お相撲さんってこんな感じかしら。
そんな冗談を飛ばす余裕はなかった。
数年に及ぶ修行時代。
気づけば手持ちルアーは300を超えた。
沢山のルアーと向き合った密月の旅を経て、ようやくひとつの「型」が見えてきた。
うん、間違いない。
私の求める答えが見えた気がする。
とうとう独自のスタイルが完成したようだ。
究極の選りすぐり。
これが私の現在の1軍ラインナップだ。
私の手持ちルアーが泣いています
薄暗い物置部屋の隅っこで泣いています
使っておくれ、使っておくれと声がします
私はそっと耳を塞いで
彼らを忘却の彼方へ追いやろうとしています
「思ひ出」にしてしまおうと考えているのです
さよならはいつまで経っても
とても言えそうにありません
こんなじゃダメだろう!
私はいま猛省している。
初心に帰って、もう一度自身の釣りを見つめ直す必要があるはず。
ダイワ/スイッチヒッター85Sは確かに紛れもないエースだ。
ただ彼一人ではゲームは出来やしない。
それに、美しくない。
頼りになる優秀ルアーは他にも沢山いるじゃないか。
さあローテーションの再構築だ。