1度だけわたしは母をみた。
兄の後ろに茶色の服を着た人がいて
兄がよけたらふっといなくなった。
「わたしは誰だったのかなぁ?」
としか思わなかった。

その後、母が死んだ日に着ていた服が
茶色だと知った。あれは母だったと確信した。

1週間がたち、朝から納棺師の方がきてくれて
母の最期の身支度が始まった。

家族が最後に少しずつ母にお化粧をする。
1週間もたつと、さすがに母の頬は
カチンコチンに冷たくかたかった。

若い人が旅立つからって、
白無垢のような出で立ちにしてくれて
親族が皆、顔の周りに白いユリをおいた。

本当にそれはそれは綺麗だった。
胸が締め付けられて苦しかった。

うちの地元では親族一同が連なって
棺桶を持ち、遺影を持ち、鐘を鳴らして、
近くのスーパーまで歩く。

あちこちから近所の人が出てきて
遺影をみては泣いていた。

突然大雨になって、誰かがこう言った。
「お母さんの最期の涙だよ。」

それを聞いてまた苦しくなった。



スーパーにつくと沢山の人がいた。
そして真っ白の霊柩車があった。
葬儀屋さんのご好意で、真っ黒ではなく、
真っ白の霊柩車を用意してくれていた。

白無垢は「死」と「再生」を意味するらしい。
一度この世の人生は終わったが、
あの世での再スタートの為に.....。

父は助手席、兄とわたしは後部座席。
えらく座り心地がよかった。

おおきなクラクションと共に
葬儀場へ向かった。

悲しさに溢れていたが、何故か涙はでなかった。