こんにちは、筑田昌伸です。
「工事が止まって、手も足も出ないんだ」
久しぶりに鳴った電話の向こうで、塗料事業を営む旧友は溜息をつきました。
ナフサの供給不足により、必要な塗料が入荷せず、現場の一時中断を余儀なくされているといいます。

時を同じくして、電気工事事業を営む別の友人からも同じような苦悩を聞きました。
こちらはユニットバスが入荷せず、工程が完全にストップ。
「住宅設備が来ないから引き渡しができない」という、状況に陥っています。

中東情勢の悪化。遠い異国の紛争が、なぜ日本の住宅建設や塗装現場を止めてしまうのか。
今回は「ナフサ不足」というキーワードから、現代ビジネスが抱える脆さと、私たちが備えるべき視点を考察します。

なぜ「ナフサ」が止まると、すべてが止まるのか

ナフサ(粗製ガソリン)は、化学産業の出発点です。原油を蒸留して作られるこの液体は、あらゆるプラスチック、合成ゴム、合成繊維、そして塗料の原料となります。
参考:プラスチックの原料「ナフサ」とは?用途や製造方法、バイオマスナフサを解説

・塗料への影響:
樹脂や溶剤の原料が不足し、製品の製造が遅延。

・住宅設備への影響:
ユニットバスやキッチンに含まれるコーティング材、フィルムの接着剤に用いられる有機溶剤の原料が揃わず、最終製品が完成しない。
参考:TOTO、ユニットバスの受注を停止 ホルムズ封鎖で材料ナフサ不足 - 日本経済新聞

今回、友人の現場を止めているのは、単なる「モノ不足」ではありません。
「たった一つの上流素材が欠けるだけで、下流の全工程がマヒする」という、現代の複雑なサプライチェーンの脆弱性が露呈した形です。

 

「ニュースの向こう側」が「現場のリアル」になる瞬間

報道で「中東情勢の緊迫」や「原油価格の高騰」を耳にしても、どこか自分事として捉えにくいものです。
しかし、現場で働く人々にとって、それは「明日からの仕事がなくなる」という死活問題に直結します。

特に建設・工事業界は、複数の職種がリレー形式で進むため、一つの部材の遅延が全体の工期を狂わせます。

・資金繰りの悪化:
工事が完了しなければ、請求が立てられない。

・人件費の負担:
仕事が止まっても、職人の雇用は守らなければならない。

・顧客対応の疲弊:
納期遅延の謝罪と調整に追われ、生産的な業務が削られる。

私たちがこの状況から学ぶべきこと

この混乱期において、今後、私たちは何を教訓とすべきでしょうか。

1. 「在庫」に対するマインドセットの転換
効率化の象徴だった「ジャスト・イン・タイム(必要なものを必要な時に)」は、今や大きなリスクを伴います。
主要部材については、キャッシュフローとのバランスを見つつ、戦略的な在庫確保(セーフティ在庫の積み増し)を検討するフェーズに入っています。

2. サプライヤーとの「情報共有」の深化
単なる発注者・受注者の関係を超え、上流の供給状況をリアルタイムで共有し合うパートナーシップが不可欠です。
「入ってこない」と分かってから動くのではなく、「予測情報」を早期にキャッチする体制を構築しなくてはなりません。

3. 代替素材・新技術へのアンテナ
ナフサ由来のプラスチックに頼らないバイオマス素材や、リサイクル素材の活用など、脱石油依存の動きをマーケティングや製品開発に取り入れることは、長期的なリスクヘッジとブランド価値向上に繋がります。

見えない繋がりを意識する

旧友たちからのリアルな声は、私たちがどれほど世界の情勢と密接に繋がっているかを教えてくれました。

ナフサ不足という荒波を乗り越えるには、個人の努力だけでは限界があるかもしれません。
しかし、「世界で何が起きているか」と「自分の現場」を線で結び、次の一手を考え続ける姿勢こそが、今の不透明な時代に求められる最強のビジネススキルと言えるのではないでしょうか。

一刻も早い情勢の安定と、友人たちの現場に活気が戻ることを願って止みません。

筑田昌伸