雷の季節にはよく人が消える。
それはもう仕方がないんだ。

少年時代を過ごしたその町には、
春夏秋冬の他に。
もう一つの季節があった―。


現世から隠れて存在する小さな町・穏で暮らす少年・賢也。
彼にはかつて一緒に暮らしていた姉がいた。
しかし、姉はある年の雷の季節に行方不明になってしまう。
姉の失踪と同時に、

賢也は「風わいわい」という物の怪に取り憑かれる。
風わいわいは姉を失った賢也を励ましてくれたが、
穏では「風わいわい憑き」は忌み嫌われるため、
賢也はその存在を隠し続けていた。

賢也の穏での生活は、突然に断ち切られる。
ある秘密を知ってしまった賢也は、穏を追われる羽目になったのだ。
風わいわいと共に穏を出た賢也を待ち受けていたものは―?

透明感あふれる筆致と、読者の魂をつかむ圧倒的な描写力。
『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞した恒川光太郎、
待望の受賞第一作。






恒川さんの世界観は独特です。夜市でもそうだったけど。
穏(おん)という町は、どこか異世界を思わせるのですが、
現実とそこまでかけ離れていないので、妙にリアルです。
世界から切り離された穏という町は、雷季があったり、
急に人が消えたりといった怪奇現象が起こります。
外の世界の人々との関わりもほとんどなく、
知られざる町。そこで育つ賢也と風わいわい。

独特の世界観に惹かれ、どんどん読み進めることができました。
時々背筋がぞっとするような出来事もあったりと、
ファンタジー小説を読んでいるような気持ちにもなったけれど、
現実とそれほどかけ離れていないので、
自分の日常に起こり得そうなところが怖かったです。

ただ、途中から展開が速かったせいもあってか、
ラストはどこか物足りないような気持ちになりました。
月夜は賢也がどうなっていくのかが、ラストに向けての重要点だと
思っていたので、風わいわいのことはあまり考えてなかったです。
でも、後から思えばこの風わいわいがポイントだったのかなぁとも。

人物の視点が章ごとに変わるのですが、
貫井さんの「慟哭」を思い出させてくれるような構成でした。
夜市より面白かったです。何より読みやすくて、
異世界なんだけどより現実に近いところが気に入りました。
ほんとに恒川さんは異世界の設定が上手だと思います。