恋の痛みなんて知らなかった。
―あの雨の日、先生に出逢うまでは。

壊れるまでに張りつめた気持ち。
ごまかすことも、そらすこともできない―
二十歳の恋。

これからもずっと同じ痛みを繰り返し、
その苦しさと引き換えに帰ることができるのだろう。
あの薄暗かった雨の廊下に。

野間文芸新人賞を最年少で受賞した若手実力派による初の書き下ろし長編。







大学2年生の春、泉に高校の演劇部の葉山先生から電話がかかってくる。
高校時代、片思いをしていた先生の電話に泉は思わずときめく。
だが、用件は後輩のために卒業公演に参加してくれないか、という誘いだった。
「それだけですか?」という問いにしばらく間があいた。

「ひさしぶりに君とゆっくり話がしたいと思ったんだ」

高校卒業時に打ち明けられた先生の過去の大きな秘密。
抑えなくてはならない気持ちとわかっていながら、一年ぶりに再会し、
部活の練習を重ねるうちに先生への想いが募っていく。



過去の思いを引きずる主人公・泉の感情に共感できるところもあります。
だけれど、小野君と付き合ったけれど傷つけたり、
いつまで経っても葉山先生を追ってしまうこと・・・・
自分を見ているようで苛立ちを覚えてしまいました。
もちろん、葉山先生に対しても怒りを覚えることが多かったです。
確かに二人の間には確かな感情があったかもしれません。
でも、あまりにも葉山先生が卑怯に思えて、
途中からはあまり面白みを感じませんでした。
小野君の態度もあそこまで豹変するのに着いていけなかったし・・・・

期待して読んだだけに、落胆する部分が多かったです。
『ナラタージュ』という言葉は、
映画などで主人公が回想の形で過去の出来事を物語ること。です。
この言葉がすごく気に入ったので、大事にしたいです。


「―君よりも苦労してがんばっている人がいるんだから君もがんばれ、なんて言葉は無意味で、個人の状況を踏まえずに相対化した幸福にはなんの意味もない。」P72