「老人と若者」

近所のファミレスやファストフード店で、珈琲を飲み、一息つくのが好きである。
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その日も、行き付けの一件に立ち寄った。
すでに夜の10時だが、店内は混んでいる。

隣りの席には、飲み会帰りの大学生と思しき男子4人組が、にぎやかに、猥談に華を咲かせている。

大学生1
「お前ら、女のどこが好き?」

大学生2
「おっぱい」

大学生3
「おっぱい」

大学生4
「おっぱい」

大学生1
「違ぇよ!優しいとか料理が上手いとか、そういうの」

大学生2
「あ、そっち?」

大学生1
「そっちだよ」

大学生3
「おっぱい」

大学生1
「だからwww」
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にぎやかで楽しそうである。

そうかと思えば、反対側の隣り。
こちらには、70歳くらいに見える老年の男性が三人、珈琲を啜っている。

こんな時間に、ファストフード店にご老輩とは、いささか違和感がある。

私は聞くとも無しに、彼らの会話に耳を傾けた。

老人X
「最近どう?」

老人Y
「毎日遊んでるよ。今日も赤羽の○○さんち行って来た」

老人Z
「俺なんて昨日寝たの3時だよ」


驚いた。
遊び自慢に夜更かし自慢とは元気な老人たちである。

老人は早寝早起きでこたつでみかん、というイメージは、もはや古いのであろう。

なおも観察していると、老人の一人が鞄からスポーツ新聞を取り出し、競馬面を広げ出した。

老人X
「さ、本題本題」
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彼らの集いの目的は、馬券の検討会だったようである。

私は彼らの会話に、ますます耳を傾けてしまう。


老人Y
「オッズわかる?最新の」

老人Z
「わかるよ。ちょっと待って」


老人の一人が、ジャンパーの懐からスマホを取り出し、慣れた手付きで操作する。

私はまたも驚いた。
現代の老人は、全く若者と大差ないのである。

大学生1
「どんなおっぱいが好き?」

大学生2
「デカいの」

大学生3
「やわらかいの」

大学生4
「おっぱいなら何でもいい。おっぱいでありさえすればいい」

大学生たち
「えいえい、おっぱーい!」
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隣りうるせぇな。
私は今、時代の最先端を行く老人たちの観察に夢中だというのに。


老人Z
「そう言えば、あんた、趣味見つかったの?」

老人Y
「ん?」

老人Z
「新しい趣味を作るって、前に言ってたでしょ」

老人Y
「競馬が一番面白いよ」

老人X
「あれはどう?俳句。赤羽にカルチャースクールあるよ」

老人Y
「やだよ、そんなジジ臭ぇの」

老人Z
「そうだよなぁ。あんなの年寄りの遊びだよ」

老人たち
「ははははは」


この話は実に興味深い。

老人たちは、自分たちを年寄りだと捉えず、むしろ「年寄り」を小馬鹿にした。

それが、超高齢化社会の現代日本を象徴するワンシーンに、私には見えた。

大学生1
「DカップのDって何だよ?」

大学生2
「デンジャラスのDだよ」

大学生3
「違ぇよ。デリシャスのDだよ」

大学生4
「エローーーい」


隣りうるせぇな!
今、私は超高齢化社会の実態の一旦を調査しているのだ!
おっぱいの調査は慎んで頂きたい。


老人X
「おっぱい好き?」

老人Y
「昔はね」

老人Z
「今は太股かな」


おぉぉぉい!
影響されてんじゃねぇぇぇ!


大学生1
「じゃあ、じゃあ、CカップのCは何物?」

大学生2
「キュート」

大学生1
「Bは?Bは?」

大学生3
「ボンバー!」

大学生4
「ボンバーーー!」

大学生たち
「おっぱい、ボンバイエ!おっぱい、ボンバイエ!」
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うるせぇぇぇぇぇ!
俺もその話題に入れろぉぉぉ!
楽しそうじゃねぇかぁぁぁ!


しかし、ここは公共の場である。
そんなに騒いでいたら、老人たちは、
「最近の若者は!」
と怒り出してしまうのではないか?

若者に腹を立てるのが、古来からの老人の常道である。
私はハラハラしながら、視線を隣りの老人たちに戻した。


老人X
「やっぱり8枠から流すか?」

老人Y
「重馬場だからなぁ明日。思いきって穴狙いか?」


老人たちは若者たちの喧騒を全く意に介さず、競馬の予想に熱中していた。

私は思った。

老人は、時代に連れて進化していると。
そして「老人」などという言葉は、もしかすると将来、死語になるかも知れないと。


大学生たち
「えいえい、おっぱーい!」
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そして、若者たちは、いつの時代も変わることなく、おっぱいが大好きなのだと。

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