「壊れたスニーカー」

道を歩いていて、靴が突然壊れたことがありますか?
私にはあります。

その日の関東は、朝から少々、雪が降っていた。

私は、自慢ではないが、雪の日によく転倒する。
それはもう、よく転倒する。

一昨年は、自宅最寄りの地下鉄駅付近。
ゆるい坂で、まんまとスリップし、絵に描いたように尻もちを付いた。

我ながら、美しい尻もちだった。

地に尻が落ちる直前をスーパースローカメラで切り取ったなら、
きっと私は、コサックダンスの姿勢をしていたはずである。

昨年は、会社と会社最寄り駅の、ほぼ中間。
凍結した路面で豪快に横滑りし、右脇腹が大地にキスをした。

まさか真横に転ぶとは思わなかった。

周囲に誰も居ないのに、
「いや、違うんだよ」
と言い訳を口にした。

脇腹をさすりながら立ち上がった瞬間、リプレイを見るかのように、もう一度横転した。
我ながら、学習しない男である。

私は、二年続けて雪に敗れた。

敗因は明らかで、それは「革靴」である。
やはり雪の日に革靴はハイリスクであった。

だから、今朝。

私は自宅を出る際、下駄箱の奥から、数年履いていなかったスニーカーを引っ張り出し、埃を払って足を入れたのだ。

vs雪戦、三年連続の敗戦は避けねばならない。
私は装備万全であった。

音符音符音符音符音符

スニーカーはやはり優秀である。
全然滑らない。
通勤時は無傷だった。

気分良く、社での一日を終えて、帰途に着く。
昨年の“戦死地”を通過した際は少々緊張したが、そこも無事に越えた。

もう一安心であろう。
私は久々に雪に勝ったのである。


そ、の、と、き。



私の足元で、
「ベロンッ、ベロンッ」
という、嫌な音がした。

と同時に、
自分の右足が、何かに引っ張られているような感覚に襲われた!

何だろう?

ガムでも踏んだか?
しかし、こんな雪の日にガム?

私は、右足裏を見てみた。
すると…
2015013022190000.jpg

靴底がベロンベロンではないか!
もう、何て言うか、ベロンベロンではないか!

靴が壊れるというのは人生で初めてのことだった。
思わぬ初体験に、私は激しく動揺してしまった。

動揺が収まらぬまま、ホームへと続く階段を降りる。
段差を一歩進むたびベロンベロンの靴底が、ムチのようにペシッペシッとしなる。

エアー部分の詰め物なのだろう、白い綿のような物質が、私の歩みに合わせてバラパラとこぼれ落ちて行く。

まるで、パンくずを千切って道標にしている探検家のようであるが、
当然、探検家とは似ても似つかぬほどカッコ悪い。

恥ずかしくなった私は、早く階段を降りきろうと、少し小走りしてみた。

右足の「ベロンベロン」が、

「ベロンっ!ベロンっ!ベロンっ!ベロンっ!」

勢いを増した。

いかん、逆効果だ。
これでは大破の恐れがある。
私は走るのを止めた。

と、その時。

「ベッコン」

…先程まで聞こえていた音と微妙に異なる音が、足元から聞こえた。

まさか、靴底以外のパーツにも、トラブルが?
私は右足を素早く見た。

…何ともない。

いや、何ともなくはない。
靴底はベロンベロンだ。

だが、それ以外は何もない。

と言うことは……

まさか……

私は、左足裏を見た。
2015013022460000.jpg

いぃぃぃやぁぁぁ!

こっちの靴底までベロンベロンではないかぁぁぁ!
もう、何て言うか、ベロンベロンではないかぁぁぁ!

まったく、雪は私の天敵である。

今回は雪に敗れなかったが、その分、靴が破れたのだから。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆